東京シティ・バレエ団『ロミオとジュリエット」2014

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東京シティ・バレエ団が江東区との芸術提携20周年を記念して、オリジナル版『ロミオとジュリエット』全二幕を上演した。初日がバレエ団、二日目が江東区文化コミュニティ財団ティアラこうとうの主催である。同版の初演は09年、今回が三度目に当たる。構成・演出・振付は中島伸欣、アンサンブル振付は石井清子。両者の長所である文学性と音楽性を巧みに組み合わせ、独自の版を作り上げている。


最大の特徴は大公のテーマを前面に出し、運命の女達をプロットに深く関与させて(二幕)、死の匂いを舞台に充満させたことだろう。一幕はティボルトの死まで。「マスク」は省略、「バルコニー」と「広場」を繋げて、リアルな時間感覚を反映させている。
ロミオの登場が舞踏会直前なのは、他版にない遅さだが、両家の争いからロミオが外れている点を強調したかったのだろう。終幕、二人の亡骸を包むように広がる銀幕に、かつてのH・アール・カオスの美意識が思い出された。


中島の二つのパ・ド・ドゥは秀逸だった。セリフが聞こえてくる。「バルコニー」ではジュリエットにキスされたロミオがでんぐり返る。「寝室」では床を使った動きで、苦悩の深さを表す。その一つ一つが中島の身体から生み出された、内的必然性を帯びた動きだった。一方、ジプシーの女達を筆頭に、石井振付のキャラクターダンスが舞台を盛り上げる。二人の振付家の性向が時に舞台を二分することもあるが、今回は物語の枠内で収まって共作の効果を上げていた。


ロミオとジュリエットはWキャスト。初日は黄凱と志賀育恵、二日目は共に初役の石黒善大と中森理恵。その二日目を見た。石黒のロミオは暖かみのある存在感と、優れたパートナーぶりが特徴。常に相手に反応する懐の柔らかさは、主役として貴重な資質と言える。対する中森は長い手脚で、肝の据わったジュリエットを造型。無垢な少女らしさは少し難しそうだったが、恋に落ちてからは役が腹に入り、悲劇を十全に生きた。中島のジュリエット像が見えた気がする。


マキューシオの高井将伍は動きの切れも良く、皮肉屋で知的な面を強調した造り、対するティボルトの李悦は、鋭さと重厚さを兼ね備えている。キャピュレットの青田しげる、夫人の岡博美、パリスの春野雅彦、ヴェローナ大公の佐藤雄基と演技巧者が揃い、演劇性の高い舞台を構築した。例によって土肥靖子を始めとするジプシー達、若林美和率いる運命の女達が、濃厚な踊りを見せる。岸本亜生アルレッキーノとコロンビーヌ達の溌剌とした踊りも見応えがあった。


福田一雄編曲版を、井田勝大が端正に指揮。演奏は、バレエ団と同じく芸術提携団体の東京シティ・フィルが担当した。(7月13日 ティアラこうとう大ホール) *『音楽舞踊新聞』No.2937(H26.11.11号)初出