東京バレエ団「横浜ベイサイドバレエ」2015

標記公演を見た(8月29日 象の鼻パーク 特設ステージ)。「DANCE DANCE DANCE @ YOKOHAMA 2015」の一環でもある。プログラムは、ブラスカ振付『タムタム』、ワシリーエフ版『ドン・キホーテ』第1幕より、ベジャール振付『ボレロ』。Wキャストの二日目だった。
最も驚かされたのは『ドン・キホーテ』の上野水香。昨年の全幕では演技に難があったのが、今回は全く払拭されている。ローラン・プティ以降、指導者なしの状態だったが、ようやく適切な指導者が見つかったのだ。斎藤友佳理芸術監督の演出も素晴らしい。全幕では気付かなかった細かい演技の流れを、間近で見ることができた。特にメヌエットに至るマイムの細やかさ! 以前NBAバレエ団のヴィハレフ版で、19世紀に繋がる演劇性に驚いたことがあるが(ブルノンヴィル作品のような)、今回はそれよりも闊達で明るい。ペテルブルクとモスクワの違いだろうか。
斎藤監督は8月に就任して早速、秋元康臣、宮川新大という才能をバレエ団に引き入れた。秋元はボリショイで学び、宮川はジョン・クランコ・スクールでペーストフに学んだ(ドイツの高校を卒業できるところだったが、ペーストフのクラスを受けるために休学したと聞く)。たとえベジャールを踊るにしても、クラシック・スタイルは基本。公演回数の多いバレエ団として、正統派ダンサーを採用するのは望ましい方向だと思う。上野の例を見るまでもなく、斎藤監督にはダンサーを育てる力がある。今回のキャスティングとダンサーのパフォーマンスを見て、その感をさらに強くした。
現在公立では、新国立劇場バレエ団の大原永子監督、民間ではNBAバレエ団の久保綋一監督が、演出とダンサー育成の点で際立っているが、そこに斎藤監督が加わった模様。先の二人は欧米のバレエ団でダンサー人生を全うした。つまりバレエ団のレパートリー展開と、ダンサーの成熟過程を熟知する。斎藤監督は東京バレエ団に所属しながら、モスクワの舞踊大学を首席で卒業したエリート。日本のバレエ団の実情とロシアバレエのレベルを熟知する。三人に共通するのは、振付はせず、二代目という点。ダンサーが正当に生かされるバレエ団がまた一つ増えた。