松崎すみ子バレエ公演『幻覚のメリーゴーランド』2016

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バレエ団ピッコロ主宰の松崎すみ子が、8年ぶりに個人のバレエ公演を催した。『幻覚のメリーゴーランド』、『鳥』(共に94年)の再演に、松崎えりのコンテンポラリー作品『vulcanus』を加えた創作集である。


『幻覚のメリーゴーランド』はベルリオーズの半生を描いた作品。円形劇場のような階段と、後半降りてくる銀色の半円天井飾り(美術・前田哲彦)が、作品世界を大きく規定。ロマンティックな主題に様式的な枠組を与え、作品に深度を加えている。ベルリオーズの『幻想交響曲』を中心にシューベルト、現代曲、ロックなどを組み合わせた選曲が素晴らしい。音楽を体で味わい尽くし、音楽と融合する松崎(すみ子)の才能を、遺憾なく発揮させる音楽構成だった。


主役の作曲家を志す青年には、新国立劇場バレエ団の山本隆之。女性に囲まれても男性に囲まれても独特の色気を発散する。ロマンティックな主題や音楽に自己を完全に没入させられると同時に、主役として舞台を冷静に掌握し、作品を推進させる力量がある。さらにサポートの凄さ。倒れながらのサポートもさることながら、サポート自体を踊りに昇華させる能力は、現在山本にしか見ることができない。阿片吸引や指揮ぶりも鮮やか。


青年が憧れる女優には下村由理恵。気高いオーラに包まれた女優と、幻想シーンの蠱惑的な女奴隷の両方を、完璧に演じる。また下村を奪う友人役には佐々木大。大技満載のダイナミックなソロで個性を発揮した。


ミック・ジャガーのような死神・篠原聖一の貫禄のソロ、手下の黒ずくめの男・能美健志の、阿波踊りのような妖しい手つきを加えた切れ味鋭いソロが、青年を死へと誘う。音楽の精・西田佑子の清潔な踊り、主人を見守る小出顕太郎の道化道の素晴らしさ。常連大神田正美の存在感も破格だった。黒タイツのシンフォニック・バレエシーンを含め、松崎のクリエイティブなエネルギーが爆発した名作である。


同時上演はピアソラを使った『鳥』。小原孝司の親鳥を中心に、左右4人が鳥の羽ばたきを象るフォーメイションが面白い。西田と橋本直樹のしっとりとしたパ・ド・ドゥ、小出顕太郎のコミカルな場面が、作品に膨らみを与えている。


松崎えり作品は、増田真也とのデュオ。様々な局面を見せてきた二人の踊りだが、今回は照明も含めて美的である。ただし、デュオの妙味であるコンタクトによる身体の変化や、松崎のオーガニックな空間構成が(照明との絡みで)見られなかったのは残念だった。(12月23日 東京芸術劇場プレイハウス) *『音楽舞踊新聞』No.2963(H28.2.15号)初出