日本バレエ協会関東支部神奈川ブロック『白鳥の湖』2016

標記公演評をアップする。

日本バレエ協会関東支部神奈川ブロックが、第32回自主公演として『白鳥の湖』全四幕を上演した。演出は橋浦勇。同ブロックにはこれまで『シンデレラ』と『眠れる森の美女』を振り付けている。今回の『白鳥の湖』は、氏の舞踊美学の全てを注ぎ込んだ、言わば集大成。所縁のある貝谷八百子版、小牧バレエ団のスタイル、英国ロイヤルバレエ旧版の演出を随時取り入れた、自伝的演出とも言える。


演出の特徴としては、振付全般に見られる内的必然性、マイムの優美なスタイル、ダンサー出し入れの美的・合理的裏付けが挙げられるだろう。さらにベンノの存在の大きさ。王子が内面を吐露する一幕ソロには踊りで介在、二幕アダージョでは王子をサポート(ロイヤル版)、三幕では王子の誤認を正そうとする。学友の域を超えた親友のような結びつき。本来なら王子の死を見届ける役回りだろう。


他に、一幕の貴族と農民の区分けの明確さ、左右両回りを重視する身体のシンメトリー、白鳥フォーメイションのすっきりとした美しさなど、演出・振付上の美学が、全編に刻まれている。終幕はオデット、王子自死の後、ロットバルトが倒れ、白鳥たちが残される。ドゥミ・ポアントで歩み出て、向こう向きに座り、静かに羽ばたきを続ける白鳥たち。音楽も、ハープの余韻を残す静謐な終わり方だった。


主役の王子ジークフリートには、ベテランの域に入った清水健太。落ち着いた優雅な佇まい、舞台を掌握する懐の深さ、ノーブルでパトスに満ちた踊り、対話のようなパートナリングが揃った、円熟の王子だった。


オデットには若手の佐藤愛香、オディールには経験豊富な樋口ゆりという適役が配された。佐藤はラインの美しさはもちろん、振付の全てに細やかな感情が入る。清潔なオデットだった。一方、樋口は鮮やかな脚線を駆使して、濃厚で華やかなオディールを造型。コーダでは清水と横並びで、脚技満載の火花を散らす踊り合いを易々とやってのけた。


脇役も適材適所。橋本直樹の献身的で情熱あふれるベンノ、高岸直樹の高貴で大きさのあるロットバルト、尾本安代の貫禄の王妃、佐藤禎徳の賑やかなヴォルフガング、荒井英之の愛らしい道化等が、橋浦演出を支えている。


橋本とトロワを組んだブロックの綾野友美、山本晴美の優雅なスタイル、確かな技術が素晴らしい。白鳥群舞は一人一人が意志を持って運命を受け入れている。ソテ・アラベスクの入場は、明るい哀しみに包まれていた。


音楽アドバイザーは福田一雄、音楽構成は江藤勝己。指揮の御法川雄矢が、俊友会管弦楽団からドラマティックな音楽を引き出している。(1月10日 神奈川県民ホール) *『音楽舞踊新聞』No.2963(H28.2.15号)初出