テアトル・ド・バレエ・カンパニー深川秀夫版『コッペリア』2016

標記公演評をアップする。

名古屋市を本拠とするテアトル・ド・バレエ・カンパニーが、芸術監督の深川秀夫による『コッペリア』を上演した。深川版の特徴は、牧歌的世界に魔術的な存在を投入したこと。自ら演じるコッペリウスをドロッセルマイヤーのごとく、世界を支配する人物に設定している。最後はバルコニーに登場して皆を見守り、彼らの挨拶を受ける幕切れである。


マイムの舞踊化、ディヴェルティスマンの抽象化など、モダンでスピーディな演出だが、一方で「曙」をトロワのアダージョで見せるなど、古風な伝統も顔を覗かせる。深川の欧州経験の一端を見た思いだ。振付は高難度。特にスワニルダはアン・ドゥダン回転のソロが多く、三幕コーダまで全編踊り詰めである。


コッペリウスを踊った深川は、軽やかなステップに洒脱な演技で物語を牽引。脚のラインの鮮やかさが、華麗な技巧を誇った往時を偲ばせる。スワニルダの畑戸利江子、フランツの西岡憲吾に対する視線に、技術を受け継ぐ者への深い愛情が感じられた。


畑戸は芝居心たっぷりのお転婆娘。大胆なフレックス足がよく似合う。鮮烈な足技、遠心力のある5回転+四方向フェッテ、踊り続けても息切れしないタフネス。難技をあっさりやってのける舞台マナーは、深川の薫陶によるものだろうか。一方西岡は、美しいライン、清潔な踊り、確かな技術の揃ったダンスール・ノーブル。爽やかなフランツだった。


オーディションで選ばれた8人のスワニルダ友人の練度の高さ、永田瑞穂の気品に満ちたアダージョ(曙)、梶田眞嗣、長谷川元志等、男性ゲストダンサーの覇気あふれる踊りが、隅々まで深川の息吹が行き渡った独自の『コッペリア』を支えている。演奏は河合尚市指揮、セントラル愛知交響楽団。(12月17日 愛知県芸術劇場大ホール) *『音楽舞踊新聞』No.2963(H28.2.15号)初出