日本バレエ協会 『ライモンダ』 2018 ①

標記公演を見た(3月10日,11日昼夜 東京文化会館大ホール 都民芸術フェスティバル参加公演)。協会初の『ライモンダ』全幕公演。演出・振付は、元マリインスキー・バレエ団プリンシパルで、現在マリインスキー劇場プリモルスキー分館バレエ団首席バレエマスターのエリダール・アリーエフによる(振付指導:ユリヤ・スミルノーワ、イリーナ・イワノーワ)。アリーエフは94年に米国バレエ・インターナショナルの芸術監督に就任、95年『千一夜物語』で振付家デビューした。以降、欧米亜で活躍、日本でも谷桃子バレエ団に『海賊』(15年)、『眠れる森の美女』(16年)を振り付けている。その特徴は、各種復元版の成果を加味しつつ、一貫したドラマトゥルギーと繊細で優美なスタイルを作品に反映させる点にある。今回の『ライモンダ』も同様のアプローチだった。
アリーエフは自ら全役を踊ったセルゲーエフ版を骨格としつつも、全く異なる版を創り上げた。古典の様式にドラマを吹き込み直す、つまりプティパのパに戻すアプローチである。『ライモンダ』復元は、昨年急逝したセルゲイ・ヴィハレフがすでに行なっている。「白い貴婦人」を含むマイムシーン、コール・ド・バレエの振付、フセヴォロジスキーの美術に大きな発見があった。アリーエフ版への影響は、まず十字軍や城の背景画、膝丈チュチュなど、装置と衣裳に見ることができる(協力:ヴォズロジジェーニエ社)。例えば夢の場の天女の、有翼の兜に鎧模様のチュチュという衣裳。復元版同場では、十字軍の騎士たちと並び、「名声」を示す女性、頭に羽を付け棕櫚の葉を持った天上の娘たちが彫像のように立って、十字軍勝利の象徴となる。アリーエフ版の振付自体はセルゲーエフ版に準じ、騎士たちも踊りに加わるが、戦士風の天女たちは復元版の天上の娘たち同様、勝利を意味する有翼の女神ニーケーを想起させた。
演出面での特徴は、復元版同様、一幕一場にアブドゥルラクマンは登場せず、代わりにジャン・ド・ブリエンヌ及びアンドレイ2世王が、従者と槍持ち6人を従えて出陣式を行う。つまり、ライモンダが夢でアブドゥルラクマンを見てから、実物に会うまでに、2、3年が経過することになり、二幕のライモンダは一幕よりも成長している。三幕はマズルカギャロップを省略し、ハンガリー物でまとめた。「ハンガリー」(子供たちの踊り)は、男女アンサンブルの男性(少年)役を若手の女性が踊るトラヴェスティ。趣は異なるが、復元版二幕に登場する男装の麗人たち(酌人の踊り)を思い出させる。
優雅なクラシック・スタイル、生き生きとしたキャラクターダンス、音楽的なマイムが、アリーエフのロマン主義的美意識の下、一つのドラマへと統合される。一幕グラン・ワルツと幻想的ワルツ(振付:セルゲーエフ)では、シンプルな振りで熱いエネルギーを生み出すプティパのエッセンスが横溢した。