日本バレエ協会 『ライモンダ』 2018 ②

ライモンダ、ジャン・ド・ブリエンヌ、アブドゥルラクマンの初日は、下村由理恵、橋本直樹、三木雄馬、二日目マチネは米沢唯、芳賀望、郄比良洋、同ソワレは酒井はな、浅田良和、福岡雄大。各世代を代表するプリマに、献身的な騎士役、同等に魅力ある敵役と、適材適所の配役だった。
初日ライモンダの下村は、一幕は的確な役作りを見せながらも、踊り自体は本調子とは言えず。しかし二幕からは調子を上げて、最終幕では古典のあるべき姿を示した。貫禄のルティレは切れもよく、体全体から濃厚なオーラが立ちのぼる。マスタークラスのお手本のような踊りだった。二日目マチネの米沢は、古典の様式に留意しながら、振付を一から自分の言葉で解釈する。マイムは当然として、ヴァリエーション、アダージョの一振り一振りに心情が行き渡り、言葉が聞こえてくるようだった。盤石の技術も前提でしかない。緻密に分節された三幕ヴァリエーションの素晴らしさ、コーダのソロでは感情が光の粒となって体から放射された。同ソワレの酒井は、昨年、一昨年の協会公演で見せた動きを追求するアプローチとは異なり、存在で見せる手法を採っている。オーロラのような明るく華やかな存在感、エロスの対象となる感情豊かな開放性は、酒井の持ち味でもある。美しいアラベスクは健在、久しぶりに剝き出しの暖かいオーラが発散された。
下村のジャン・ド・ブリエンヌは橋本。凛々しくノーブルな佇まいは、出陣式、夢の場で大いに発揮された。本調子でない下村を全力で支える姿も、騎士のあるべき姿と重なる。三幕ヴァリエーションでは、所々体と頭の齟齬が見られたが、規範に則った美しいアティチュードはジャン・ド・ブリエンヌそのものだった。米沢のジャンは芳賀。米沢同様、その場を生きるタイプで、二人の間には細やかな感情が行き交った。踊りも勇壮。米沢がアーティストとして何をしようとしているのかをよく理解し、役を超えて支えている。カーテンコールでは米沢を一人、前に押し出す。胸が熱くなるようなパートナーシップだった。酒井のジャンは浅田。騎士としては髪の色が少し気になったが、酒井がどのような状態にあろうとも動じず、ノンシャランな佇まいに男らしさが漂った。ヴァリエーションも余裕がある。
初日アブドゥルラクマンの三木は、ノーブルなサラセンの騎士を意識したのか、濃厚な芝居はなく、あっさりとした演技。反対に、二日目マチネの高比良は、大きな踊りでエネルギーを爆発、一気にイスラムの世界を現出させる。芳賀の無垢なジャンと好対照だった。同ソワレの福岡は浅田のジャンと同格。芝居よりも体と運動性で、酒井に迫る。切れ味鋭いヴァリエーションは見応えがあった。浅田と交換可能に見える。
ダンサー達は、ソリスト、アンサンブル、立ち役に至るまで、生きのよい踊りと血の通った演技を披露した。スタイルを必ずしも習得できていない場合でも、持てる力を出し切っている。アリーエフの舞台思想なのだろう。寺田亜沙子のライモンダ友人、江本拓のトルバドゥール、堀口純、仙頭由貴の天女ソリストなど、新国立組が踊りを牽引する一方、山本みさのドリ伯爵夫人、桝竹眞也のアンドレイ2世、柴田英悟の従者、川島春生の召使など、ベテラン組が舞台を引き締める。槍持ち、夢の場の騎士たちも貢献。キャラクターダンスでは、池本祥真、牧村直紀、渡辺幸、渡久地真理子のサラセン、長清智のパナデロス、小泉菜摘のチャルダース、パ・ド・カトルでは江本、酒井大、吉瀬智弘のノーブルな踊りが印象深い。
ジャパン・バレエ・オーケストラ率いるオレクセイ・バクランは、入魂の指揮ぶり。ダンサーを注視しつつ、グラズノフの世界に入り込み、メロディ一つ一つに愛情を注いでいる。