東京バレエ団 「プティパ・ガラ」 2018

標記公演を見た(9月1日 神奈川県民ホール 大ホール)。マリウス・プティパ生誕200周年を記念し、『ジョコンダ』より「時の踊り」、『アルレキナーダ』よりパ・ド・ドゥ、『エスメラルダ』よりパ・ド・シス、『ラ・バヤデール』より「影の王国」、『騎兵隊の休息』よりパ・ド・ドゥ、『タリスマン』よりパ・ド・ドゥ、『ライモンダ』よりグラン・パ・クラシックが上演された。59歳から82歳までのプティパ円熟期の作品である。チャイコフスキー音楽の有名作を選んでいないのは、振付が主役だからか。群舞のシンプルかつ豪華な振付、パ・ド・ドゥのエスプリあふれる対話のような振付、そのいずれもが音楽の魅力を生かし、豊かな物語性を帯びている。故ヴィハレフ、ラトマンスキー、ブルラーカ等が、舞踊譜を基にプティパ作品を復元し、19世紀バレエの思いもよらない姿を明らかにしているが、一方で、師から弟子へと伝わったプティパ振付の極意もある。今回の振付指導には、元ボリショイ劇場バレエ団プリンシパルのニコライ・ヒョードロフが招かれた(氏によるプレレクチャー「プティパ〜クラシック・バレエ黄金時代の幕開け」も同ホール大会議室にて同時開催、通訳:斎藤慶子)。
プログラム構成の妙もさることながら、薫り高く細やかな演出がプティパ生誕を寿いでいる。バックドロップには巨大な額縁。ピアノ譜が映し出され、曲名と作曲家名が徐々に大きくなると、シモテ花道に陣取るピアニストが作品の主旋律を奏でる。ピアノ譜の表紙がロシア語から日本語へと変わる頃、ワレリー・オブジャニコフ指揮、神奈川フィルハーモニー管弦楽団の演奏が始まる。額縁の映像は作品に合った街並みや大空の情景へ。ピアノのアットホームな雰囲気から厚みのあるオケへの流れが、舞台への自然な集中を促した。
配役はバレエ団の才能を生かした適材適所。中でも『エスメラルダ』の伝田陽美と柄本弾、『タリスマン』の沖香菜子と宮川新大に魅了された(出演順)。共に音楽がよく聞こえ、物語がよく見える。伝田は持ち前の強烈なパトスと高い技術を惜しみなく役に注ぎ込んだ。全身に感情が行き渡り、腕の一振りで見る者の心を鷲掴みにする。全幕で見たいと思わせる素晴らしさだった。グランゴワールの柄本は、暖かいオーラでエスメラルダの伝田を見守り、愛情を捧げる。伝田の深い絶望の受け皿となった。一方、沖と宮川は、天界の娘とお付きの風の神が下界へと降りていくパ・ド・ドゥ(プログラム)を、『白鳥の湖』で培った無垢なパートーナシップで、ゴージャスに、またロマンティックに綴った。沖の繊細でみずみずしい踊り、宮川の覇気あふれる大胆な踊りが、対話のように呼吸しながら絡み合う。沖の踊りには、観客を祝福する晴れやかさがある。いつまでも見ていたいと思わせた。