1月に見た振付家2020

山田うん『NIPPON CHA! CHA! CHA!』(1月10日 KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ)

如月小春の同名戯曲(88年)を、演劇とダンスの両方で演じる特異な二本立て。構成・振付・演出 山田うん、音楽 ヲノサトル、空間構成 光嶋裕介。1時間づつ上演するのかと思ったら、2時間15分が演劇(休憩あり)、続けて25分のダンスだった。戯曲(登場人物が全て首相経験者の名前)は未読なので、山田演出のアプローチを語ることはできないが、スポーティで身体性重視。要のハナコ役 山根海音の弾力ある垂直演技が、その象徴だった。芸達者の脇役俳優陣に加え、文学座の鈴木陽丈(新聞記者)と、元Noism 現Co.山田うんの吉﨑裕哉(フクダコーチ)による二枚目対決、山田のさばけたラ・ムールママが、前田旺志郎松竹エンタテインメント)演じる孤独のマラソンランナー ヨシダカズオを取り囲む。

期待に応えてどんどん成績を伸ばすヨシダが、負傷し、走ることができなくなって遁走する。残された人々のその後がしみじみと演じられたのち、すぐにダンス・パートへ。白い衣装の前田が走り出たとき、これは死後の世界なのだと思った。風のように旋回する白のダンサーたちは、言わば精霊。色鮮やかに演じられた現世を眼下に見て、愛おしんでいる。コーチだった吉﨑が教え子だった前田と寄り添い、吹き抜けるように踊る姿には、過ぎ去った愛の形が見えた。

山田の語彙を熟知している手兵に比べると、吉﨑の踊りは、ごつごつと不器用。大きな体を動かし、自分の全てをさらけ出している。時折見せる鮮やかなライン、生々しい手の動きは、ノイズム・メソッドとの格闘の跡か。相撲部屋に生まれたことを思い出させる大きさと激しさ。傷ついた動物が、山田うんという場で体を癒しているように見えた。

 

金森穣『シネマトダンス―3つの小品』& 森優貴『Farben』(1月17日 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール)

Noism1 と Noism0 出演のダブルビル。ゲスト振付家招聘は8年ぶりとのこと。ダンサーたちの新たな側面が見られる好機である。

金森の『シネマトダンス』は映像を駆使した3つの小品からなる。冒頭の「クロノスカイロス」は、10人のダンサーが映像に映る自分と鏡面の踊りをする。そのあまりの一致に、何か仕掛けがあるのかと思ったが、途中から違う動きになり、映像に合わせていたことが分かった。音楽(バッハ)があるから可能だが、映像に自分の体を同期させるのは、ハードルが高い。手法の面白さよりも、ダンサーの走っては映像と向き合うことの過酷さに思いが至った。

続く「夏の名残のバラ」では、ソプラノ歌手の歌う同名アイルランド民謡が繰り返し流れる。冒頭の映像は Noism の公演ポスターが張り巡らされた楽屋。バラの花束がドライフラワーとなって、吊るされている。井関佐和子が鏡に向かって入念に化粧をする。「夏の名残のバラ」の歌。化粧を終え、赤いドレスに身を包んで階段を上る井関。紗幕が上がり、井関が登場する。それを撮る山田勇気。その映像を背景に井関が踊る。床には一面の枯葉。山田はサポートしながらも、なお井関を撮り続ける。アップの顔を映すその冷ややかさ。最後は客電が点き、無人の客席がバックに映し出される。肩を落として立ち去る井関、と山田。

金森は井関にダンサーとしての死を意識せよ、と言っているのか。それとも、死を内包する肉体を目指せ、と言っているのか。残酷とも、裏返しの愛情とも。井関がそれに耐え得ると信じているのだろう。

最後の「Fratres Ⅱ」は、昨夏の続編。ペルトの音楽をバックに、円の中で金森が一人踊る。美しい両腕のフォルム、鮮やかな手首の返し。前作と同じく蹲踞もあり、儀式性が高い。最後は米粒に打たれる滝行で終わった(米とは分からなかった、米と聞いて少し抵抗感を覚える)。

後半は森優貴作品。『Farben』とは色のことだが、無彩色の世界。照明も暗い。机、植木鉢、花瓶の花がアクセントに使われる。プログラムによると「色彩=私たち=生きる意味」とのことで、色彩が失われた世界で、どのように生きるか、がモチーフとなっているようだ。暗い背景に反して、踊りは生命力あふれるものだった。動きの一つ一つにダンサーの感情が伴い、それぞれの個性が反映されている。これ程までに Noism のダンサーが巧いと思ったことはなかった(金森の薫陶の成果)。

鳥羽絢美の東洋武術風の踊り。しなやかで、躍動感にあふれる。また、井関が群を抜く振付解釈で、ベテランの貫禄を示した。ジョフォア・ポブラヴスキーとのデュオも素晴らしい。終盤の林田海里によるパセティックなソロも新たな発見だった。個性を出し、感情を出して、思い切り踊れる喜びが、観客にも伝染。熱いカーテンコールが続いた。

 

安藤洋子『ARUKU』(1月24日 象の鼻テラス)

安藤がプロジェクトリーダーを務める「ZOU-NO-HANA BALLET PROJECT」の公演。横浜発、市民が支えるダンスカンパニー設立を目指して、2018年1月、安藤が「フォーサイスから学んだ膨大な情報とダンスの素晴らしさ」を若手ダンサーに伝える教育プロジェクトが始まった(アフタートークの情報では、再来年の旗揚げが予定されている)。

今回の公演は、選抜メンバー8人(12歳から34歳)と安藤自身が、一般の人々に開かれた場所で行う、実験的ダンスパフォーマンスである。長方形平面舞台の二辺に客席。舞台には韓国出身アーティスト ハン・ジンスの動くインスタレーションが設置されている(羽のモビール、回る葉っぱの植木鉢など)。

上演前に一般客を交えた「歩く」を実施。安藤が客席から歩く人を誘い出す。時間になると安藤は、ダンスの邪魔になる植木鉢を押し頂いて、場外へ運んだ。たちまち「寺の娘の身体」が立ち現れる。さらに天井から吊るされた回転ロープを、リモコンで止める。それでも足りなかったか、作者のハンに切るように頼んだ。

前半は、それぞれが直角に向きを変える歩行。喋る人も。一列になって歩く隊形あり。合間を縫う安藤の、武術風低重心動きが面白い。変わらぬ自由な精神。下駄の似合う脚は、残念ながらズボンに隠れていたが。一瞬一瞬考えながら、瞬時に判断を下しながら、踊っている。後半は、フォーサイス仕様。上田舞香、上原杏奈を始めとするダンサーたちが、躍動感あふれる踊りで、舞台を縦横無尽に駆け抜けた。バレエ・ベースのダンサーたちはフォーサイスに見えるが、同じ振付でも、安藤は安藤の踊り。しかし教えることはできる、その不思議。

アフタートークは、安藤と、象の鼻テラスアートディレクター 岡田勉が登壇。安藤は「バレエテクニックと日常をつなぐ」、「ダンサーと一緒に考える」、「舞台を普通に歩く難しさ」、「本当は1時間全部、実験的にやりたかった、不毛の1時間、世捨て人の私はよいが、若いダンサーには酷なので(フォーサイスにした)」、「ダンサーには、空間と対話する、自分で考えて動く、を求める」、「自分はダンサーよりも、アーティストでいたい」など語った。再来年のカンパニー立ち上げに際しては、芸術監督になる予定。

 

山崎広太 @ Whenever Wherever Festival 関連企画「しきりベント! vol.3」(1月25日 元映画館)

2021年の標記フェスを目指して行われたリサーチ企画。オールナイトを含む会期3日間のうちの中日、13時から20時まで、三河島にある元映画館(日暮里金美館、現在「銀幕カフェ」)で、4つのプログラムを見ながら過ごした。合間にカフェのカウンターで、チキンクリームリゾットを食べたり。最初は観客一人だったが、徐々に増えて、最後は満員になった。

最初は Aokid 企画の「TRY DANCE MEETING」。よく分からないまま、運営メンバーの福留麻里さんと、ダンスについて喋る(Aokid はまだ不在)。話してる途中で、ようやくダンスについて喋る企画だと分かった。久しぶりにダンスについて思い切り喋った。

昼食後、西村未奈 企画「右脳左脳バランスデッサン&西村未奈のモンスターダンスをデッサンする会」。最初に、西村がベニントン大学で教えている呼吸法を、参加者が実践。それから二枚の画用紙が配られ、左右両方の手で、好きなものをデッサンする。ユニゾンでも、シンメトリーでも可。すぐ前にいる青年(谷繁玲央)のデッサンが素晴らしかったので、後で譲って貰った。 モンスターダンスは西村と山野邉明香のソロ2つ。あらかじめ二人がモンスターをデッサンし、それを踊る。参加者は踊りを見ながら、モンスターを想像して描く。ジェスチャー+連想ゲームのような難しさだが、不思議に似ている絵があった。西村ソロは体でモンスターの絵を描くアプローチ、山野邉ソロはモンスターになるアプローチだった。

続いて、福留麻里 企画「記録を巡るダンス」。シドニー在住の黒田杏奈が、動きながら自宅の部屋について説明する。さらに、日舞を踊る必要があって、当地の日舞の先生に教わり、母からスカイプで着付けの手ほどきを受けた、と語りながら、日舞を踊る。自宅は麻薬常習者のリハビリ施設の真ん前で、その手の人がたむろしていたりする、住所を言うと、皆が引く所、でも窓から見る風景は好き、とも。カフェの高椅子から見ていたので、ガラスケース越しの斑な体験、記憶になった。

最後は、山崎広太 企画「ダンス・スプリント」。模範となる一人が数分のムーブメントを行い、それを6人のパフォーマーが記録、記憶しつつ、それをもとに再生する。このアイデアは競輪の先頭誘導員制から触発された、とのこと。スティーヴ・ライヒの『Music for 18 Musicians』を使用。70分ぶっ続けで踊る「ダンス・スプリント」である。始める前、備品を壊さないよう、相手を持ち上げてもよいが、コンタクト・インプロはだめ、技術がないから、など山崎から注意があった。

冒頭は山崎がひとしきり踊ってみせる。それから徐々にダンサーたちが入っていくのだが、上記のようなムーブメント再生は、よく分からなかった。それぞれの踊りと発話で勝負する完全インプロ。その中で八木光太郎が、山崎に対抗するトリックスター的動きと叫びで、空間を切り開く。床に貼られた美術チームのインスタレーションを、強烈な蹴りで剥がしたり。因みにアクティング・スペースは、普通の居間くらい。このため、山崎はカフェをぐるりと回ったり、八木は2階に駆け上がったりした。

途中で音源が切れて、山崎が「あれっ?」。その間もダンサーたちは踊り続ける、スプリントなので。山崎が「みんな、踊り続けて偉いねえ」と褒める。音源が回復。終盤、山崎が突然、舞踏の体になった。周囲から自分を切り離し、内に内に入ることで、静かに蠢く統一体が現れる。芋虫のように慎ましく、身一つで時空を超えた旅を続ける山崎。ずっと見ていたかったが、音楽が終わると、即、現世に戻ってきた。すぐにダンサーたちとフィードバック。誠実な指導者の姿がそこにあった。