新国立劇場バレエ団「First Steps」

新国立劇場バレエ団「First Steps」評をアップする。

新国立劇場バレエ団が「Dance to the Future 2013」の関連企画として、「First Steps」を上演した。バレエ団所属ダンサーが同僚のダンサーに振り付けをする試みで、ビントレー芸術監督の発案による。企画の意義としては、振付家育成の場を作った点、ダンサーが同僚の批評的視線により、新たな側面を発見できる点が挙げられる。
昨冬、関係者で試演会を行ない、一年かけて一般公開に漕ぎつけた。小劇場公演のため、バレエダンサーの強度に満ちた肉体(踊り)を、間近で見られる利点があるが、一回公演では観客数が限られる。次回はぜひ複数公演に増やし、振付家育成と、観客の啓蒙を促進して欲しい。
プログラムは二部構成。10人の振付家による13演目である。習作に近い作品もある中で、ベテランのマイレン・トレウバエフと貝川鐵夫が、次に繋がる作品を提示した。
トレウバエフは四作。明確な構成力と、ダンサーの資質を見抜いて作品化する力に秀でている。米沢唯には爽やかでコミカルな踊りを振り付けているが(まだ米沢の本質には達していない?)、長田佳世にはヴィヴァルディの『四季』を使い、赤いドレスと激しいパトスに満ちた振付を与えている。長田の躍動感あふれる音楽性、力強い美しい跳躍が、一編のドラマを紡ぎだす。二月のアンナ・カレーニナを補完するようなソロだった。
また本島美和にはオルフの『カルミナ・ブラーナ』を使い、黒いラメのドレスで題名も『マザーナイト』。本島の、全てを飲み込むような母親としての可能性、夜の女王を思わせる昏い情念を嗅ぎ当てている。踊りこんで、持ち歌(踊り)にして貰いたい作品だった。
一方、貝川は男性トリオとデュオを振り付けた。トリオは『G線上のアリア』を使ったコンテンポラリーだが、その組み合わせに必然性を感じさせる振付。吉本泰久、輪島拓也、貝川という、同質でないダンサーがユニゾンで踊るとき、それぞれ固有の息遣いが滲み出て、作品がクリエイティヴな空間たり得ていることを証明した。八幡顕光と福田圭吾には、コミカルな、対話を思わせる振付。二作とも音楽的で、振付家の内部と結びついている。
他には、アンダーシュ・ハンマルのベートーヴェンを使った7人による踊り。大和雅美を核にフォーメイションで関係性を見せる作品である。また小笠原一真小曽根真の曲で、ベテラン女性3人と若者たちを対比させた。若者のポップな衣裳が効いている。
若手では、八木進が宝満直也を採用して、男の魅力あふれるソロを展開、高橋一輝は自らを含む四人のダンサーで、生き生きとした青年群像を描き出した。また紅一点の広瀬碧は、朝枝尚子と自らのデュオで、ドッペルゲンガーを可愛らしいワンピース姿で踊り、少女の不安を表現した。
最後はピアノを使用した作品。小口邦明はドビュッシーの『月の光』の冒頭を弾いたあと、若生愛とのデュエット(CD演奏)を、宝満直也は稲葉智子による生演奏で、奥田花純と現代的なデュエットを自作自演した。
全ての作品に、指揮者ビントレーの存在が感じられる。バーミンガム・ロイヤル・バレエで活躍した山本康介が、現在その成果を創作の形で帰朝報告しているが、振付家として育まれた軌跡の一端を、今回の公演で確認することができた。(12月3日 新国立劇場小劇場) 『音楽舞踊新聞』No.2891(H25.2.11号)初出