8月に見た振付家 2021

福田紘也『Life - Line』@ 大和シティ・バレエ「想像✕創造 vol.2」(8月14日 大和市文化創造拠点シリウス芸術文化ホール メインホール)

公演の副題は「追う者と追われる者 」。5人の振付家が新旧作を出品し、最後に福田作品が上演された。アンドロイドと人間が混在する近未来。音楽は平本正弘とストラヴィンスキーを使用。3人のアンドロイドと、彼らを取り仕切る車椅子の老人を『ペトルーシュカ』の登場人物に擬える。看護師ロボットの川口藍はバレリーナ、やんちゃな少年 八幡顕光はペトルーシュカ、黒メタルコートにサングラスの殺し屋 福岡雄大ムーア人、車椅子老人 福田圭吾は人形使いの親方といった具合。題名の「ライフライン」とは電源コードのことで、常時何本も天井からぶら下がっている。途中、川口や八幡がバッテリー切れを起こし、直立のまま動かなくなるが、コードを腰に付けると回復する。八幡と川口のパ・ド・ドゥは赤い電源コードを互いに結び付けて。最後は福岡が椅子に座り、おもむろに電源コードを腰に付けて幕となる。川口のスレンダーなライン、八幡の運動的音楽性、福岡のスタイリッシュな色気、福田(圭)の老獪な存在感と、いずれも適役だった。

福岡が巨大な青ビニール袋を相手に被せる場面はベケット風。川口が瞬時に八幡の帽子をかぶり、ビニール袋捕獲の身代わりになるくだりには、胸を突かれた。親方の福田(圭)がペトルーシュカの音楽でソロを踊るのは、かつての姿をイメージさせるためか。銀色衣裳のアンサンブルは、アンドロイド風ではなく むしろ人間的。振付は矢上恵子を思わせる切れ味鋭い動きの連続である。ただしどこか取って付けたような感触が。アンサンブルを使うことにあまり興味がないのかもしれない。全体的にはいつもと同じ、真正のクリエーションの妙味があった。全て福田(紘)の体から生み出されている。ムーヴメントはもちろん、演出も自らの美意識と照らし合わせて嘘がない。これまでもそうだが、福田作品には遠い宇宙へと突き放された振付家の孤独が滲む。理解されないことを怖れない、創造者の孤独である。ダンサーへの愛情も豊か。特に同門の福岡に対しては、年下の叔母のような理解と愛情を注いでいる。

他作品のブラウリオ・アルヴァレス振付『ララの詩』では、五月女遥、大塚卓の美しい踊り、竹内春美振付『最後の晩餐前』では、小出顕太朗の振付理解、池上直子振付『オペラ座の怪人』では、木村優里、渡邊拓朗のパトスのこもった熱い踊りが印象的だった。

 

貝川鐡夫 新国立劇場『Super Angels』(8月21日 新国立劇場 オペラパレス)

昨年初演予定だったが、コロナ禍で今年に延期された 同劇場三部門連携企画オペラ。昨年初演された同劇場バレエ団『竜宮』と同じ、東京オリ/パラリンピックに向けた「日本博主催・共催型プロジェクト」の一環である。

総合プロデュース・指揮:大野和士、台本:島田雅彦、作曲:渋谷慶一郎、演出監修:小川絵梨子、装置・衣裳・照明・映像監督:針生康、映像:WEiRDCORE、振付:貝川鐡夫、舞踊監修:大原永子、オルタ3プログラミング:今井慎太郎。

出演:オルタ3、藤木大地、三宅理恵、成田博之、世田谷ジュニア合唱団、ホワイトハンドコーラス NIPPON、新国立劇場合唱団、渡邊峻郁、木村優里、渡辺与布、中島瑞生、渡邊拓朗。管弦楽東京フィルハーモニー交響楽団

全知全能の AI 「マザー」が支配する未来。子供たちは15歳になると選別される。アキラは異端と判定され、ナノチップを注入、開拓地に送られる。仲良しのエリカは学者の道へ。開拓地でアキラは教育係のアンドロイド ゴーレム3と出会う。カオスマシーンの創出、エリカとの再会、マザーの崩壊。『魔笛』を思わせる「マザー」の存在、笛と土偶(?)の交換あり。ナノチップを注入するフォーメーションが面白い。

劇場合唱団に加え、アンドロイド、ジュニア合唱団、聴覚障害視覚障害の子供たちを中心とする合唱と手歌(手話ベース)のグループ、さらにバレエダンサーが登場するため、演出は困難を極めただろう。しかもコロナ禍のため、全員が前を向いて歌わざるを得ない状況である。だがこれらを差し引いても、全体を統括する演出家の視点が感じられなかった。「渋谷慶一郎作品」ということなのだろうか(客席は子供よりも大人が多かった)。子供たちの歌う島田歌詞「五人の天使」はよいと思うが、最後に歌う「孤独な人はいない」は、あまりに島田本人とかけ離れている。子供のためのオペラだからよしとしたのか(副題は「子どもたちとアンドロイドが創る新しいオペラ」)。

貝川鐡夫の振付は、優れた音楽性とタガの外れた動きがよく生かされていた。最初のダンサー登場は、木村優里と渡邊峻郁によるエリカとアキラの対話。バレエ寄りの踊りで、渡邊は回転技を披露。次は渡辺与布と渡邊(峻)によるゴーレム3とアキラのパ・ド・ドゥ。初めはゴーレム3が、何となく男性か中性と思っていたので混乱したが、渡辺のグレー・オールタイツやアンドロイド的動きから、彼女がゴーレム3だと分かる。途中から人間らしい動きになり、ユニゾンを経て、組んでのデュエットに至った。ただ渡邊(峻)とアキラ歌手の藤木大地が似たタイプではなく、藤木とゴーレム3の間にドラマが生じないため(藤木の歌唱に問題)、相乗効果には至らず。続いて木村が支配者「マザー」となって登場。蝙蝠のような二本の角、目玉お面、黒い翼に黒ポアントで「夜の女王」を思わせるゴージャスなゴッドマザーを体現した。黒い触角に悪魔のような黒衣裳の中島瑞生と渡邊拓朗が、木村のリフト役を務める。終盤「マザー」が壊れていくと、木村も狂った踊りに。タガが外れたクキクキ踊り、鋭いシェネが大きく撓んでグキグキと減速する。木村は昂然と立つ力強さと、あっけなく壊れていく脆さのあわいを巧みに踊り切った。

貝川の振付は、バレエベース、壊れたダンス共に音楽と一致している。意味が突出することなく、音楽的快楽が常に並走する点で、オペラと親和性のある振付家と言える。ダンサーたちは最後にカラフルなタイツを履き、大きく丸いベージュの提灯を被らされる。あまり動くこともできず、カミテにおとなしく座って、総歌いを見守った。カーテンコールでは渡辺が提灯から両手を出して、観客に向かって手を振り、共同クリエーションの喜びを表出。今回見せ場を作った木村、渡辺は共に美脚だが、木村はドラマティック、渡辺はスタイリッシュという 個性の違いがあった。

 

酒井はな✕岡田利規 @ TRIAD DANCE PROJECT「ダンスの系譜学」横浜トライアウト公演(8月22日 Dance Base Yokohama)

ミハイル・フォーキン原型、酒井はな改訂『瀕死の白鳥』と、岡田利規演出・振付『瀕死の白鳥 その死の真相』を見て、酒井、岡田、四家卯大(チェロ演奏)、島地保武(ゲスト)のトークを聴くはずだったが、関係者の当日一斉抗原検査で、1名の感染可能性者が確認されたため、公演中止となった(同日午後のPCR検査で陰性と判明)。10月1, 2, 3日に愛知県芸術劇場 小ホールで、安藤洋子、酒井はな、中村恩恵による本公演が開催されるが、見ることができない。トライアウト公演のトークで岡田に質問したかったこと。「これまではコンテンポラリー・ダンサーに振り付けていたが、古典ダンサーが出発点の酒井には、何か特別な違いがあったか。」