新国立劇場バレエ団『ラ・シルフィード』2016

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新国立劇場バレエ団が13年ぶりにブルノンヴィル版『ラ・シルフィード』を上演した。同版はデンマーク・ロイヤル・バレエ団の初演以来、多少の変遷はあるにしても、途切れることのないレパートリーで、19世紀ロマンティック・バレエの貴重な遺産となっている。


ブルノンヴィル版の主たる魅力は、大胆で輝かしい男性舞踊、練り上げられたマイム、闊達な民族舞踊にある。腕を使わない跳躍や脚技は、リール共々、強い体幹と脚力をダンサーに要求、コンパクトに切り詰められた独特のマイムも、上演のハードルを上げる。


主役は4キャスト。ジェイムズは覇気あふれる福岡雄大、ロマンティックな奥村康祐、美しい井澤駿、と個性を発揮したが、最もブルノンヴィルのニュアンスを伝えたのは菅野英男だった。雄弁なマイム、晴れやかなソロ、勇壮なリール。何よりもM字形のグラン・プリエを見せたのは菅野一人である。絵に描いたようなジェイムズだった。


シルフィードは出演順に、妖しい誘惑者の米沢唯、清潔な妖精の細田千晶、無邪気な妖精の長田佳世、コケティッシュな妖精の小野絢子と、これも実力と個性を発揮。中でも長田は、パを微塵も感じさせない生きた動きで、妖精の繊細さ、はかなさを体現した。


脇役で唯一ブルノンヴィルのマイムを見せたのが、エフィの堀口純。感情もこもっている。またマッジの本島美和が、深い役作り、音楽的なマイム、舞台を掌握する力で、終生の当たり役を手に入れた。W配役の男性マッジ高橋一輝も、力強い演技で存在を主張。意外な所では、若手のフルフォード佳林が、慈愛あふれるアンナを造型した。


ソリストからアンサンブルまで、ダンサー達は初めてのメソッドを前によく健闘したが、現地指導者が入らなかったせいか、前回ほどには、ブルノンヴィルの息吹を感じさせるパフォーマンスとはならなかった。


同時上演は、ラフマニノフの音楽(編曲ギャヴィン・サザーランド)にウエイン・イーグリングが振り付けた『Men Y Men』(09年、ENB)。『ジゼル』の同時上演作だったため、9人の男性ダンサーをアルブレヒトに見立てた振付が施されている。アラベスクを読点にソロを始めるシークエンスが面白い。15分と短く、前座のような作品だが、自らの作家性よりも、ダンスール・ノーブルの美学をダンサーに伝えたいという、振付家の熱い気持が先行した、後味のよい作品だった。


指揮はギャヴィン・サザーランド、管弦楽は東京交響楽団。厚みのある音作りだが、もう少し叙情性が加われば、さらに舞台を牽引できたかも知れない。(2月6日昼夜、7日、11日 新国立劇場オペラパレス) *『音楽舞踊新聞』No.2965(H28.3.15号)初出