下島礼紗 『sky』 @ 横浜ダンスコレクション2018

標記公演を見た(2月3日 横浜にぎわい座 のげシャーレ)。横浜ダンスコレクション2018「ダンスクロス|アジアセレクション」トリプル・ビルの1作である。
暗やみのなか「痛い、痛い」という声と共に何かを叩く音が聞こえる。明るくなると、紙オムツを付けた小柄な女(下島礼紗)が、紙袋を被った赤フンドシの男(伊藤勇太)に担がれて、お尻を叩かれている。お尻は真っ赤。どこからともなく同じ紙オムツで作った胸当てに紙オムツという恰好の女たちがぞろぞろ現れ、猿のように突っ立つ。コンテ風にユニゾンで踊り、ダンスグループであることを示すが、ニュアンスは体育会系。続いて全員が氷のブロックを一個ずつ両手に持ち、仁王のように上に掲げつつ、股を開いてドゥミ・ポアントで腰を少し落とす。氷の冷たさ、重さ、脚の緊張が赤くなった体から伝わってくる。バックには『極限修行者音頭』。徐々に脱落する者が出て、11人が3人に。傍らでは様々なミニ・ドラマが展開される。一つはインフルエンザに罹ったことを総括する女、もう一つは下島に「何でノーギャラなんだよ」と言って平手打ちを喰らわす大きい女。この女はその後、修行者のようなプロテイン無添加筋肉の伊藤に言い寄ったりもする。現場は肉体の極限状況から凄惨になるが、作品に漂う精神は明るい。下島がドライアイスをポットに投入し、ポコポコ音が立つなか幕切れとなる。
下島は作品のインスピレーションの元となった連合赤軍事件―「総括」の名のもとに同志をリンチする―と、作品制作過程・振付行為とを重ね合わせている。陰惨になるはずの作品だが、仲間に振り付けること、根拠のない想念を押し付けることの暴力性、振付家の独裁性への自覚が、風通しのよい明るさを与えている。下島は「ノーギャラ」平手打ちを喰らったとき、恥じらうような笑みを浮かべて立ち去った。一瞬にして振付家を無効にし、作品を丸裸にする言葉を挿入する下島のラディカルな批評性。立てこもる赤軍派としての男+女たちに、警察や親が「お尻を出して、出てきなさい」と拡声器で呼びかけるが、「お尻を出す」とはヒヨコということ(その前に紙オムツ状態だが)。ヒヨコであることを自覚しつつ、裸一貫で何とか現実を引っ掻こうとする下島の創作姿勢が明らかだった。