日本バレエ協会「全国合同バレエの夕べ」2023

標記公演を見た(8月11, 13日 新国立劇場 中劇場)。「日本バレエ協会新進バレエ芸術家育成支援事業」の一環で、今年は9支部と東京地区により、11作品が上演された(関東支部は2作品、東京地区は本部出品作品の枠を引き継ぎ、両日共通の1作品)。内訳は創作バレエが5作品、コンテンポラリーダンスが3作品、古典(抜粋)が3作品だった。

経験を積んだベテランから若手振付家まで、地元ダンサーと共に一堂に会し、互いの成果を確かめ合う貴重な機会である。今回はその中に、Noism Company Niigata 芸術総監督の金森穣も含まれている。両日最終演目の『ライモンダ』よりは、元ボリショイ劇場バレエ団ファースト・ソリストで、国立ブリヤートオペラ・バレエ劇場バレエ団芸術監督、ニジニ・ノブゴロド国立アカデミーオペラ・バレエ劇場バレエ団芸術監督を務めた岩田守弘が、振付を担当した。

創作バレエ5作から上演順に。最初は関東支部『アルル』(振付:松下真、B.M.:秋山かおる、岡本小夜子)。ビゼー組曲アルルの女』を使用したシンフォニックバレエである。振付家の松下は音楽の曲想に寄り添い、間合いや繋ぎに至るまで細かく振付を施している。清潔なクラシック・スタイルと自然なフォーメーションの融合を見ながら、ビゼーの音楽に身をゆだねることができた。白チュチュ 福田侑香の細部まで意識化されたプリマの踊り、黒チュチュ 松平紫月の華やかで力強い踊りが作品の核となる。福田のパートナー 橋本直樹は、相手を掬い取る懐深いサポート、松平のパートナー 江本拓は、美しくスタイリッシュなサポートで、振付家の美意識を印象付けた(男性は黒の上下、半袖シャツが粋)。森田維央、渡部一人に、グレー、薄緑、水色チュチュのアンサンブルも、主役と絡みつつ、丁寧にフォーメーションを築いている。

中部支部『マダム・バタフライ』(選曲・振付:川口節子、B.M.:松村一葉)は、シューマンのピアノ協奏曲と、プッチーニ蝶々夫人』より「ある晴れた日に」「合唱」を使用したモダンバレエ。川口節子バレエ団のレパートリーである。蝶々夫人に川瀬莉奈、ピンカートンに市橋万樹、スズキに高木美月、息子に松村周、松村百萌(3年後)、ピンカートン夫人に松村一葉と、適役が配されているが、ドラマを立ち上げることよりも、蝶々の内的世界を描くことを主眼とする。背景も抽象的。絶えず波音が聞こえ、海の男女アンサンブルが、蝶々の苦しみや嘆きに寄り添う。驚いたのは、ピンカートンが夫妻で戻ってきた時の、蝶々の怒りの激しさ。いきなり倒れ、にじり寄り、幽霊のように立ち上がり、仁王立ちで二人を引き離す。夫人が去ったあと、ピンカートンにむしゃぶりつき、軍服を剥ぎ取り、それを蹴り、ピンカートンをも蹴る。最後は息子に軍服を被せ、自刃して倒れる。オペラの主人公に比べるとあまりに激しい内面吐露だが、リアリズムではなく、神話レベルのアプローチなのだろう。

水色Tシャツと同色ワンピース姿の海アンサンブルは、モダンダンス風グラン・プリエやダイナミックな上体の旋回を駆使し、蝶々の心象風景を紡いでいく。女性の上に男性が弧を描いて覆いかぶさる波型フォルムは、終幕、母蝶々の亡骸の上に息子が同じ弧を描くことで、悼みと慰めの形となった。川口の途方もない創造エネルギーが、ダンサー一人一人に宿った力作である。

東北支部『コロンバイン』(振付:高橋一輝、B.M.:長谷川静香)は、21年秋に新国立劇場バレエ団「Dance to the Future : 2021 Selection」で上演された作品の改訂版。初演時には男女3組が様々な恋模様を描いたが、今回はそれにジュニアのアンサンブルを加えている。セグルビョルンソンの同名曲を使用、コロンビーヌとアルレッキーノを下敷きに、澄ました女と滑稽な男、すがる女と二枚目男、頭のいい女とボーっとした男を、青(加藤帆香、佐藤天羽)、赤(寺澤梨花、草野浩世)、黄(下永小百合、大平歩)のソリストが踊る。音楽、ドラマ、動きが密接に絡み合う練り上げられた振付。ケルト風の細かい足技は難度が高そうに見えたが、ソリストたちは演技を含め、振付家の意図をよく表している。フルートの牧歌的な音色、縦1列で踏むスキップは楽しく、ジュニア・アンサンブルは可愛らしかった。

関東支部『インパルス』(振付:安達哲治、B.M.:川島文子、掛田未来)は、レナード衛藤の掛け声と和太鼓に合わせてアスレティックに動くモダンバレエ。バー6台を3台づつ平行に並べ、体操の平行棒のように使用する。様々なパの試行、リンバリングといったバレエ系の動きに加え、平行棒の上に仰向けで四つん這いになるなど、体操に近い体の使い方も散見される。全体的にはいわゆるバレエの美よりも、リズミカルな運動的快感の追求が主軸となっている(バレエシューズ使用)。伊藤みさと、吉原葵率いる20名の若手女性ダンサーが、クラスレッスンと体操を混合させたベテラン振付家の意外性あふれる振付に、必死で喰らいついている。

九州南支部『Construction~さわらび』(振付:佐藤利英子、B.M.:尾野るり)は、2011年「東日本大震災」に衝撃を受け、その後 被災地のあちこちで芽吹いた「わらび」に感激して創作されたという(プログラム)。「鎮魂」と「復興」への祈りをこめたシンフォニックバレエは、モーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」に振り付けられた。水色の胴着、白地に金のチュチュ、ティアラの華やかな衣裳は、復興への祈り、座位の板付きで始まる幕開けは、早蕨の若々しい芽吹きを思わせる。ジュニアが多いせいかユニゾンを多用、アン・ファスでの第2ポジション・グランプリエが力強さを表す。小野恵莉奈、桑原彩、坂本聖莉、マリシ・ヴィマラプラブハ、渡辺美咲のソリストは個性があり、15人のアンサンブルも生き生きと音楽に乗って踊っていた。

コンテンポラリーダンス3作も上演順に。関西支部『Woman et femme a nouveaux』(振付:磯見源、B.M.:桑田彩愛)は、昨年に続く磯見作品。パーカッションを使用したミニマルな音楽(カールソン)に、コンテ語彙が炸裂する。途中 阿波踊りのような部分も。ダンサーにとっては踊りたい振付だろう。女性ダンサー10人のうち半数が連続出演となるが、昨年に比べて全体にラインの張りが弱まり、そのため動きの強度が落ちた印象を受けた。今後は振付の魅力だけでなく、作品としての主張も期待したい。

信越支部『畦道にて~8つの小品』(演出振付:金森穣、B.M.:池ヶ谷奏)は、2020年新潟市洋舞踊協会の委嘱により創作された(プログラム)。パッヘルベルからアルビノーニまで8つの美曲を用いて、友情、恋、孤独、愛を描いていく。NCN の男性ダンサーがサポートに入り、同国際活動部門芸術監督の井関佐和子が、少女と心温まるデュオを踊るなど、強力なバックアップもあるが、支部のジュニアたちが金森の振付を素直に踊っていることに最も感動があった。冒頭は歩くだけの手のダンス、最後は前屈しながら両手を左右に動かし、舞台袖を出入りする。おとなしさから大胆へ、ダンスを通しての変貌を見ることができる。ミルクティ色のワンピース、男子の同色上下は、素朴で品があり、異次元を作る手助けとなった。金森の意志、美学が行き渡った作品である。

北海道支部『空白のある物語』(振付:大森弥子、B.M.:阿部衣梨子)は、バルトークの『ヴァイオリン協奏曲第2番』第1楽章を聴き、「空白」という言葉を想起したことから作られた(プログラム)。伊藤景子、梅原真子を中心とした15人の若手女性ダンサーが、白、黒、赤ドレスを身に付け、椅子、赤い本、黒靴を扱いながら踊るシンフォニック・コンテである。断片的な物語が見え隠れするが、そうした面白さよりも、バルトークの音楽に純粋に振り付けられた部分に、強く惹きつけられた。コンテ語彙が音楽と完全に一致している。物語のイメージを加えなくとも、音楽的振付から自然にドラマが浮かび上がるのではないか。

古典作品3作は、両日最終演目を除いて上演順に。北陸支部ラ・シルフィード第2幕より(振付:坪田律子、監修:法村牧緒、B.M.:横倉明子、坪田陽子)は、シルフィードを岩本悠里、ジェームズを巻孝明が務めた。岩本は前日までの所属バレエ団公演の疲れも見せず、軽やかな足捌きで愛らしいシルフィードを、巻は両回転を含む美しい正統派ジェームズを披露した。様々なスタジオの若手から成るアンサンブルが、古風な踊り方を丁寧に学び、成果を発表している。

山陰支部『ジゼル』第1幕より(振付指導:中川亮、B.M.:中川リサ)は、ペザント・パ・ド・ドゥと収穫の踊りを組み合わせて、牧歌的な一場を作る。ジゼルとアルブレヒトは登場しないが、ダンサーたちの佇まい、踊り方から、ロマンティック・バレエの雰囲気がよく伝わってきた。男性陣の被る様々な帽子も趣がある。ペザントは2組の男女で。おっとりとした大森早菜は田村幸弘と、きらめきのある坂口瑛香は藤島光太と組んで、持ち味を発揮した。ゲストの田村は少し控えめながら回転技の鮮やかさが特徴、藤島は踊りの見せ方にメリハリがあり、舞台を力強く牽引する。アンサンブルのジュニアたち、男性ゲスト陣も爽やかな踊りで、舞台に自然の息吹をもたらした。

東京地区『ライモンダ』より(振付:岩田守弘、B.M.:佐藤真左美)は、1幕グランド・ワルツに、3幕パ・クラシック・オングルワからギャロップ、アポテオーズまでを組み合わせている。主役のライモンダ、ジャン・ド・ブリエンヌは、初日が蛭川騰子と清水健太。蛭川はよく磨かれた体に細やかなニュアンスを加え、神秘的なライモンダを造形した。清水は本来の踊りとは言えなかったが、ジャンの勇壮でノーブルなスタイルを実現。ベテランらしい舞台だった。二日目は井関エレナと二山治雄。井関は大きく伸びやかなラインを生かし、真っ直ぐに振付を遂行。フランス派の踊りに長ける二山は、ボリショイ・スタイルを学ぼうとする姿勢がよく窺えた。ニジンスカ版『ラ・フィーユ・マル・ガルデ』(NBA バレエ団)での神がかったバットリーが記憶に新しいが、今回は大きく踊ることを目標にしている。

両日ソロの大木満里奈は、最も岩田の指導が行き届き、ボリショイ・スタイルを実践した。手を開いた大きな上体使い、ダイナミックな脚技が、長身の体から繰り出される。見得の切り方も大きかった。男性4人は東京地区の若手だが、基礎が入っていない者が混ざり、悪目立ちしたのが残念。ワルツは女性のみ24人が、花綱をまとめたり広げたりして踊る。プティパ風のシンプルなパの組み合わせで、古風な味わいがあった。