10、11月の公演感想メモ(旧Twitter)2023

NBAバレエ団ジュニアカンパニー公演。エリザレフ版『エスメラルダ』第2幕と『パキータ』の演出・指導が素晴しい。前者のフランス風群舞とドラマ性、後者のスペイン風群舞と技巧。本公演でも見たい。岩田雅女振付『Schritte』は女性群舞のコンテ作品。師匠矢上恵子譲りのパワフルな語彙が炸裂。12月『ドン・キ』夢の場PDDも期待。団員ゲストでは、グランゴワール伊藤龍平の的確な役理解とノーブルな踊りが印象深い。(10/8 所沢市民文化センターミューズ マーキーホール)10/9初出

 

アルテイソレラ『恋の焔炎』。花道、すっぽん、セリを駆使したフラメンコ創作集。フラメンコギターは当然として、義太夫津軽三味線、和太鼓、附け打ちをフラメンコの変拍子に強引に巻き込む佐藤浩希の熱い演出・振付が素晴しい。本人もソロを踊ったが、むしろ奏者と並び、パルマと掛け声で演者を駆り立てる姿に本来がある。

8作それぞれ味わい深く、中でも鍵田真由美の玉手、松田知也の俊徳丸ははまり役。低重心の念仏群舞と共にフラメンコベースの『玉手』を作り上げた。おくだ健太郎の直前解説も間合いが絶妙で、舞台の虚構を崩さない。津軽三味線の浅野祥が朗々と自作を歌い上げれば、カンテの中里眞央が強度の高い声を肚から発信。二人の伸びやかな歌声に顔がほころんだ。ゲスト権弓美の立体的なフォルム、松田の両性具有の美しさが印象深い。(10/18 日本橋公会堂)10/22初出

 

*昨年88歳で亡くなった山田奈々子のメモリアル公演。9人の弟子と、縁の深いゲストが出演。折原美樹は山田経由の高田せい子作『母』と自作、三浦一壮は父五郎から山田に伝えられたダルクローズのリトミック『20ジェスチャー』、妻木律子は山田作『声なき声のレクイエム』(89年)を山田の弟子2人と、川村美紀子は『愛の讃歌』をヨーデル=ラップ風に歌い踊る。最後は弟子たちと山田の映像がリンクする『曼殊沙華』(98年)が捧げられた。

折原のパトス、三浦の飄々と世界と対峙する深い身体性、妻木の強烈なフォルムと音楽性、川村の比類ない声が、山田を追悼。生前の豊富な映像を作品と絡めた構成が素晴らしい。山田の愛情深さを彷彿とさせる愛情のこもったメモリアル公演だった。 山田がダルクローズの「20ジェスチャー」をNYのダンサーに教える映像が興味深い。ベートーヴェンの『月光』をバックに、20のジェスチャーが呼吸やニュアンスを取り入れて ‟踊り” へと変わっていった。(11/2 俳優座劇場)11/7初出

 

カラス アパラタス アップデイトダンス100回記念『素晴らしい日曜日』。演出・照明は勅使川原三郎、出演は勅使川原、佐東利穂子、ハビエル アラ サウコ。前回の『ワルツ』(未見)に続く布陣だが、全く違う踊りだろうと思う。ダンスの芽、ダンスになる前の動きが、雨音と共に延々と続く。3人は距離を置いて、しかし互いの気配を感じ取りながら"いごいご”と動く。それぞれの思考を味わうような公演だった。

面白かったのはハビエルの存在。いつも二人で踊っているところに、新局面が差し込まれる。特に佐東は自由に踊っている印象。最後は勅使川原と二人になるが、急に体が硬くなり、亭主関白夫の良き伴侶となった。勅使川原は気付いているだろうか。佐東の演出・振付で勅使川原が踊る可能性はあるだろうか。(11/5 カラス アパラタス)11/7初出

 

東京シティ・バレエ団「シティ・バレエ・サロンvol.12」。スタジオカンパニーダンサーを中心に振り付けられた創作集。濱本泰然振付『B possibility』、キム・ボヨン改訂振付『ラ・バヤデール』第2幕、松崎えり振付『kukka』、草間華奈振付『百花繚乱』と、古典バレエからコンテンポラリーまで並ぶ。ゲストの松崎作品は、ダンサーにとって初めてのダンススタイルだったのでは。自分の体を受け入れながら、音楽と呼吸をシンクロさせていく。鈴木百花とキム・キョンロクのパセティックなデュオが素晴しかった。鈴木の暗い情念、キムの相手と関わる人間的強さ、両腕の伸びやかさが印象深い。

濱本作品は濱本らしい美しいスタイルが徹底されている。場面や人物の関係性など分かりにくさも残るが、白組の古典美、黒組のパトス、金の女神と、イメージが明確。細やかな指示がダンサーに施されている。ここでも鈴木の艶のある存在感が印象的。ピエロの山畑将太は儚げだった。『ラ・バヤデール』のガムザッティは求心的な踊りの根岸茉矢、ソロルの大川彪は腕と上体が美しく、感情のこもったサポートを見せる。黄金の仏像、壺の踊りからアンサンブルまで、キムの古典指導が行き届いていた。最後の草間作品は華やかな衣裳で伸びやかに踊られるシンフォニックバレエだった。(11/12 豊洲シビックセンターホール)11/14初出

 

新国立劇場バレエ団「Young NBJ GALA」ドゥアト振付『ドゥエンデ』。ニジンスキー作『牧神の午後』の変奏で、現代の牧神とニンフが森で戯れる。若手中心のため歴代と比べるとやや薄味だが、その中で最も牧神を感じさせたのは石山蓮。PDD集のソロル同様、音楽的で覇気あふれる踊りを見せる。振付のあるべき形を体で理解できるのは、東バの牧神、大塚卓と同じ。もう一人は、強靭なポジションから無意識の動きを繰り出せる森本晃介。深いプリエと力感みなぎる両腕は武術を思わせる。真摯なサポートも美点の一つ。西一義の知的な牧神も印象深い。自身の思考の形が見える踊りだった。

PDD集で全幕を見たいと思わせたのは、吉田朱里と仲村啓の『ジゼル』第2幕より。長身カップルゆえのライン美も長所と言えるが、何よりも精緻な踊り、深い役理解、真っ直ぐな舞台姿勢に胸打たれた。1幕を踊るとどうなるのか、様々に想像させる。(11/25, 26 新国立劇場中劇場)11/27初出