井上バレエ団『眠りの森の美女』2014

標記公演評をアップする。

井上バレエ団が創立45周年記念公演として、チャイコフスキー三大バレエを連続上演した。その掉尾を飾ったのが古典バレエの最高峰、『眠りの森の美女』全三幕である。芸術監督関直人による改訂は、本来あるべきマイムをできる限り残すと同時に、シンフォニック・バレエの世紀である20世紀の息吹を古典に吹き込むというもの。バレエ団のシンプルなスタイルが生み出す童話のような味わいに、スピード感が加わる独自の版が出来上がった。一幕ローズアダージョとオーロラのソロは、婿選びのパ・ダクションとして本来の味わいを残している。また王と王妃がこれほど演技をするのを見たことがない(マイムは小牧バレエ団版経由)。指導には元デンマーク王立バレエ団のペトルーシュカ・ブロホルム、パ・ド・シス指導に佐々木想美が加わっている。


オーロラ姫は島田衣子と宮嵜万央理のWキャスト、王子はパリ・オペラ座のエマニュエル・ティボー。島田の回を見た。島田は昨夏の『白鳥の湖』で、古典では初めて内面化された踊りを見せた。今回は体調も万全、一幕の少女らしさ、二幕の小悪魔的魅力、三幕の晴れやかさと、幼さを個性とする中にも成熟を覗かせている。07年以来ゲスト出演を重ねているティボーは、初々しい少年から成熟した男性へと変貌を遂げた。オペラ座らしい正確な技術に美しいスタイルを持つ、まさに『眠り』の王子そのものだった。


リラの精の西川知佳子はバレエ団のシンプルなスタイルを代表する踊り手。ほのぼのとした味わいながらも風格を感じさせる。真っ直ぐな踊りと演技だった。一方カラボッスは藤野暢央、ご馳走である。女装の艶やかさ、雄弁なマイムで場を一気にさらう。王と王妃の森田健太郎、藤井直子も、仲良く濃密な存在感を示して、舞台に厚みを加えた。青い鳥パ・ド・ドゥの田中りな、土方一生は伸びやかな踊り、パ・ド・カトルの菅野やよひ、速水樹里、源小織、荒井成也は見応えがあった。


指揮は福田一雄。いつもながら一音一音が立つドラマティックな指揮で舞台を牽引した。演奏はロイヤルチェンバーオーケストラ。(2月22日 文京シビックホール) *『音楽舞踊新聞』N0.2925(H26.5.1号)初出