ABTラトマンスキー版『くるみ割り人形』2014

標記公演評をアップする。

アメリカン・バレエ・シアターが三年ぶりに来日、ラトマンスキー版『くるみ割り人形』、マクミランの『マノン』、「オールスター・ガラ」ABプロを上演した。この中から『くるみ割り人形』初日を見た。


09年よりABTのアーティスト・イン・レジデンスを務めるアレクセイ・ラトマンスキーは、19世紀ロシア及びソビエト時代の作品を蘇演する他、各国のバレエ団に新作を提供している。振付の特徴は自らのダンサー時代と同じ、技倆を誇るのではなく、目の前の素材に誠実であること。それぞれのバレエ団の歴史と現在に適した作品形態を選択している。今回の『くるみ割り人形』(10年)はブルックリン・アカデミー・オブ・ミュージックとの提携作品。バレエを見たことのない地域住民や、地元の小学校との交流を重視した演出である。


退屈しがちな一幕は通常よりも早いテンポで踊りを減らし、芝居のようにスピーディに展開する。子ども達の動きは踊りというよりも、感情を直接表現する身振り。今回はKバレエ・スクールが担当したが、地元小学生を考えての振付だろう。二幕ディヴェルティスマンは、一幕の乳母がアラブ風の遣り手婆さん(金平糖の精)となって統括。バレエに馴染みのない人にも分かるように物語仕立てだった。子役のクララとくるみ割り人形が仲良くそれらを見物し、パ・ド・ドゥはクララの理想を投影した王女と王子(大人)が踊る。最後は夢から覚めたクララがくるみ割り人形を抱いて幕となる。


振付は闊達なモダンを縦横に駆使する一方、クラシック場面ではフェッテ・アン・ドゥダンなど、高難度の振付が施され、バレエファンの目を楽しませる。王子ソロはタランテラ本来のテンポ、台本にある蜜蜂を花のワルツに組み込み、くるみ割り人形の姉たちに葦笛を踊らせるなど、歴史を重んじるラトマンスキーらしい演出も散見された。


初日の王女と王子はヴェロニカ・パールトとマルセロ・ゴメス。パールトの素朴でダイナミックな踊りと、ゴメスの暖かく包み込むような騎士ぶりは、アメリカ社会に向けて開かれた作品の性質とよく合っている。ドロッセルマイヤーのヴィクター・バービー、金平糖の精のツォンジン・ファン、家令のアレクセイ・アグーディン等のマイム役や、クララのアデレード・クラウス、くるみ割り人形のダンカン・マクイルウェイン、子ねずみのジャスティン・スリオレヴィーンの子役、また葦笛の加治屋百合子等のディヴェルティスマン・ダンサーも全力で作品に貢献し、スターダンサーを擁するABTのもう一つの側面を披露した。


演奏はデイヴィッド・ラマーシュ指揮、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団。(2月20日 オーチャードホール) *『音楽舞踊新聞』No.2928(H26.6.11号)初出