新国立劇場バレエ団『しらゆき姫』2014

標記公演評をアップする。

新国立劇場バレエ団がこどものためのバレエ劇場として、『しらゆき姫』(09年)を上演した。これまでの中劇場からオペラパレスに場を移し、レヴェルアップしての再々演である。構成・演出は三輪えり花、音楽構成は福田一雄、振付は小倉佐知子、監修は牧阿佐美による。


三輪の構成・演出はディズニー映画に準拠しながらも、しらゆき姫の清い心を強調し、子供達への教訓をラブ・ロマンスの中に潜ませている。結末も継母が改心し、母娘がダブル・アダージョを踊るバレエらしい大団円に変更した。子供のためとあってナレーションも多いが、舞踊の見所は全く損なわれていない。かわいいキノコのお家や狼男(?)の衣裳が魅力的な石井みつるの美術、子供達の心を水先案内する杉浦弘行の照明、四方から音の聞こえる渡邊邦男の音響も加わり、オペラパレスに深いドイツの森が出現した。


何よりもバレエを熟知した福田の音楽構成が素晴らしい。ヨハン・シュトラウス2世の『騎士パスマン』と『シンデレラ』からの選曲。シュトラウスらしい晴れやかなワルツ、マズルカポルカギャロップが、物語の流れに沿って、または裏切って、巧みに構成されている。陰惨になりがちなお妃の悪巧みもコミカルに処理されて、終始心浮き立つシュトラウス・バレエの、プティ版『こうもり』に続くレパートリー化である。小倉の振付は、難度の高いクラシック、華やかなキャラクターダンス、床を使うモダンダンスが、登場人物に応じて、適切に振り分けられている。特にしらゆき姫の古典的なソロ、お妃の濃厚なソロは魅力的だった。


キャストは主役のしらゆき姫に小野絢子、米沢唯、長田佳世、細田千晶。王子はそれぞれ福岡雄大、林田翔平(菅野英男の故障降板により代役)、奥村康祐、林田。お妃は本島美和、堀口純、寺田亜沙子。鏡の精ミラーは小柴富久修、宝満直也。いずれの組も個性を生かし、子ども達の心に届く演技を心掛けていた。中でも本島のお妃は、演技に幅があり、作品に奥行きを与えている。


お妃のお付き、動物や小鳥を踊った女性陣のレヴェルの高さは言うまでもないが、男性若手から中堅に移ろうとしている林田の落ち着き、小柴のノーブルで妖しい存在感、森の精池田武志のダイナミックな踊り、道化高橋一輝の視野の広い演技は、来季の古典作品を支える大きな戦力になる。


来季幕開け『眠れる森の美女』の前哨戦のような公演。4年間ビントレー作品に鍛えられたおかげで、ダンサー達は演技、踊り共に掌中に収めて、公演のレヴェルアップに大きく貢献した。(7月25日朝昼、26日朝昼 新国立劇場オペラパレス) *『音楽舞踊新聞』No.2933(H26.9.1号)初出