日本バレエ協会「全国合同バレエの夕べ」2014

標記公演評をアップする。

日本バレエ協会平成26年度「全国合同バレエの夕べ」を二日にわたり開催した。文化庁「次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」の一環である。今年も9支部、1地区が12作品を出品し、本部恒例の『卒業舞踏会』が両日上演された。この企画は新進の振付家及びダンサーの育成を主眼とするが、同時に日本各地の創作家の現在を確認できる利点がある。創作物は8作、若手からベテランまで創意に富んだ作品が並んだ。


ベテラン・中堅作家の内、九州勢が対照的な作品を上演した。伊藤愛(いとし)の『MASQUERADE』(九州北支部)と、日高千代子の『夕鶴 悲恋に染まる紅の空』(九州南支部)である。前者はハチャトリアンの曲で、仮面を小道具にヨーロッパの瀟洒な雰囲気を醸し出す。ダンサーの出入り、フォーメイションの複雑さに伊藤の優れた音楽性が窺われた。一方後者は、琴、笛、ピアノによる邦楽を用いて、「鶴の恩返し」をバレエ・ブランに昇華させる。勝田零菜の美しいつう、小濱孝夫の深みのある与兵が、情感豊かな日本バレエの核となった。


中堅組の矢上恵子、篠原聖一、島崎徹は、5月に行われたPDA(関西を中心とする男性バレエダンサー集団)東京初公演と同じ振付メンバー。関西支部の矢上は、ラヴェルの『ボレロ』他を用いた『Cheminer』(進んでいく、の意)。愛弟子の福田圭吾を軸に、20人の女性がジャズダンス、モダンダンス、ブレイクダンスを混淆させた独自の振付で、エネルギッシュ且つ華やかな舞台を繰り広げた。


関東支部の篠原は、ファリャの曲でスペイン情緒満載の『スペイン舞曲』。女性群舞は時にユニゾン、時に小グループで踊らせるが、その扱いにややニヒルな感触が残る。篠原のノーブルな個性は、中尾充宏と女性2人の親密なトリオ、芳賀望のクールなソロで発揮された。中国支部の女性36人に振り付けた島崎の『ALBUM』は、少女から大人になる過程を、F・マーティン他の音楽で描く。二つのグループが互い違いで左右に揺れるフォーメイションは、ミニマルであると同時に自然な息吹を感じさせる。振付と島崎の身体に乖離がないからだろう。若いダンサーにとって、「経験」となる作品だった。


若手作家では、坂本登喜彦、岩上純、石井竜一が個性を競った。東京地区の坂本作品『Route Passionate...』は、M・ドアティのシンフォニック・ジャズ風現代音楽と、宇宙や自然を無機的な色調で描いた立石勇人の映像とのコラボ作品。映像も現代的な振付(ポアント使用)も音楽を色濃く反映している。長尺のため、途中単調になる所もあったが、坂本のダンサーへの愛情、スタイリッシュな美意識が強く感じられた。


同じく東京地区の岩上作品『FANATIQUE』は、ドヴォルザークのスラブ舞曲を用いたクラシック作品。振付家の陽気な音楽性が炸裂する。永橋あゆみと浅田良和のアダージョは美しく、男性4人の超絶技巧は鮮やか。舞台を共同体に変える統率力がある。甲信越支部の石井作品『ヴァイオリン協奏曲』はブルッフの同名曲に付けたシンフォニック・ダンス。後藤和雄、冨川直樹に女性ソリスト3人と女性群舞が、エイリー風の語彙で踊る。大曲をそつなく舞踊化しているが、もう少し振付家の刻印を期待したい。


古典作品は4作。地域の特徴が出たのは、沖縄支部の『パキータ』(改訂振付・長崎佐世)。生き生きとした脚、明確なバットリー。一人一人が自分の人生を踊っている。主役の長崎真湖は技術を見せない澄んだ踊りだが、もう少し覇気があってもよかっただろう。同じく『パキータ』の関東支部(改訂振付・丸岡浩)は、上体を大きく使った華やかな踊りの樋口ゆりと、端正な菅野英男が中心。アンサンブルは明るく規律があり、よく揃っていた。


北陸支部は『レ・シルフィード』(改訂振付・坪田律子)。ソリスト(岩本悠里、土田明日香、石谷志織)、アンサンブル共、ロマンティック・スタイルをよく身に付けている。マズルカの法村圭緒は、絵に描いたようなダンスール・ノーブルだった。山陰支部の『コッペリア第一幕』は、『シルヴィア』の曲を加え、アシュトン版『リーズの結婚』の引用も含む変わり種(振付・中川亮)。中川リサのスワニルダ、男性陣の技術の高さが目立つ、賑やかな一幕だった。


両日トリの『卒業舞踏会』は早川惠美子指導の道場。女学院長は、繊細な女らしさが自然に滲み出る田中英幸、老将軍は茫洋とした雰囲気の長谷川健。第2ソロの寺田亜沙子、第1ソロの大場優香、鼓手の二山治雄、本来のフェッテ競争を実現した佐野基と津田佳穂里が強烈な印象を残した。指揮の福田一雄がシアターオーケストラトーキョーを引き連れて、舞台に多大なエネルギーを供給している。(7月29、31日 新国立劇場オペラパレス) *『音楽舞踊新聞』No.2933(H26.9.2号)初出

紙面上の4、5、6段で、行が入れ替わっている箇所がある。書いた本人はすぐ分かるが、初めて読む人はどうだろう。パズルのようなもの。学生時代、英詩を読んでいた頃を思い出した。韻の関係で主語、述語、形容句があっちこっちに飛んでいるのを、最も可能性の高い内容を考えながら、読み直す。そんな感じ。