谷桃子バレエ団若手育成公演『ジゼル』2014

標記公演評をアップする。

谷桃子バレエ団の若手育成公演「New Passion Wave」が二回目を迎えた。第一回は12年の『白鳥の湖』。今回はバレエ団の魂とも言うべき『ジゼル』。谷桃子版は通常よりも役の掘り下げが深く、若手にとっては大きなチャレンジである。裏方スタッフにも中堅若手を起用し、オーケストラも、指揮者河合尚市の指導する学生主体オケ(尚美学園大学)を採用。研究成果を発表する熱気あふれる公演となった。


今回の『ジゼル』は新人公演とは言え、バレエ団プリンシパルの齊藤拓が芸術監督となって、また指導陣が変わって初めての上演である。最大の変化はアンサンブル。これまではクラシカルな様式性や女性らしい淑やかさを特徴としてきたのに対し、今回の公演では、村娘は村娘のように踊っている。キャラクター重視の指導法なのだろうか。


キャストは2組。初日のジゼル植田綾乃は、大柄で伸びやかな肢体の持ち主。ラインのコントロールアダージョの見せ方はこれからだが、自然体の演技、二幕での情熱あふれる踊りに、今後の可能性を窺わせた。二日目の佐藤麻利香は主役経験もあり、期待通りの出来栄え。技術の確かさ、役どころをよくわきまえた演技は申し分ない。ただ主役デビューの『シンデレラ』に比べると、本来出せるはずのパトスが滞っている。諸事情はあると思うが、早く殻を脱して欲しい。


アルブレヒト初日の今井智也はベテランの域に入りつつある。新人の植田をよくサポートし、齊藤監督の薫陶か、ロマンティックなスタイルを以前よりも身に付けている。一方、佐藤と組んだ檜山和久は、美しいラインとクールな風貌が特徴。初役とあって、感情の表出やアダージョの見せ方に課題を残すが、強い個性を感じさせた。


ヒラリオンの安村圭太は頭脳派、須藤悠は激情派。先輩近藤徹志の腹の入りようには及ばないものの、力演だった。ミルタ初日の松平紫月ははまり役。二日目の江原明莉共々、バレエ団のミルタ造型指導は優れている。また新人公演を脇で支えたのが、クーランド大公の陳鳳景、バチルド姫の林麻衣子、男女貴族と、ベルタの日原永美子である。貴族達のゆったりとした佇まい、ベルタの愛情が主役を暖かく包み込んだ。


定期公演では主役からアンサンブルまで3キャストを組める大所帯ゆえ、こうした新人発掘の試みは貴重。チケット価格も低く設定され、バレエに馴染みのない観客導入にも成功している。(8月15、16日 ゆうぽうとホール) *『音楽舞踊新聞』No.2935(H26.10.1号)初出