Project LUCT「Rising Sun」

標記公演評をアップする。

東日本大震災復興支援を目的とする芸術家団体Project LUCTが、初のバレエ・ガラ「Rising Sun」を開催した。本団体は、海外在住の日本人ダンサーと音楽家から構成され、被災地と次世代ダンサー支援を組み合わせた活動を行なっている(アーティスティック・リーダーはノルトハウゼル都市同盟劇場所属の片岡直紀)。


幕開けは石川啄木の『一握の砂』を基にした創作『The handful of sand』。被災地岩手へのオマージュとして創られた。片岡の構成、ロビーナ・ステヤー、櫻井麻巳子、片岡の振付で、男女8人が踊る。ラヴェルドビュッシーショパン他のピアノ曲(演奏・横路裕子)と、岩手の風景や啄木の歌の映像、コンテンポラリー・ダンスを組み合わせた緩やかなコラボレーションである。小さな砂山に向かう啄木(片岡)のリアルな姿が、客席と舞台の架け橋となった。


第二部はガラ・コンサート。奥村彩(オランダ国立バレエ)による『瀕死の白鳥』、櫻井(ギーセン州立劇場)とステヤー(リューネブルグ州立劇場)の『死と乙女』(振付・ステヤー)、甘糟玲奈(ロシアカレリア劇場)と関祐希(スロベニア国立オペラ劇場)による『ラ・シルフィード』、佐々木七都(ニュールンベルグ州立劇場)による『Threads』(振付・シモネ・エリオット)、沼田志歩と梶谷拓郎の『BOTTOM OF THE SKY』、片岡と研究生の『Moon Shine』(振付・リタ・ドゥボスキー)、門沙也加(ニュールンベルグ州立劇場)による『Ave Maria』(振付・ゴヨ・モンテロ)、奥村と山田翔(オランダ国立バレエ)による『海賊』というプログラム。


それぞれが震災時に海外にいて感じ、考えたことを、自己表出の礎としている。他方で、日本在住では諸般の事情で難しいダンサーとしての成熟過程を、個々に見ることが出来た。クラシックでは奥村の絶対的な責任感、コンテンポラリーでは、佐々木の振付理解と細かく分節化された体の濃密な動き、門の実存を賭けたデズデモーナなど。彼らの肉体が、日本の文化的現況を照らし出している。


今回の公演には、関東への避難を余儀なくされている被災者180名が招待された。また収益金の全額(85,551円)が釜石市市民文化センター再建のために寄附される。今後は『一握の砂』を持って被災地を廻るツアーが予定されている。(8月1日 セシオン杉並) *『音楽舞踊新聞』No.2935(H26.10.1号)初出