6月に見たミルタ―本島美和と矢内千夏 2017

6月にボリショイ・バレエを含め、数人のミルタを見た。瞠目させられたのは新国立劇場バレエ団の本島美和と、Kバレエカンパニーの矢内千夏。ベテランと若手という対照性に留まらず、アプローチの仕方にも大きな違いがあった。
本島については別項(7/8付)でも書いた通り、円熟の域に達した演技が素晴らしい。他役同様、その人物がどのように現在に至ったかを考え抜いている。若い娘として生きていたことや、ウィリになってから女王になるまでの長い年月が、踊りやマイムの端々から感じ取れる。定型的な冷血ではなく、男たちを取り殺さざるを得なくなった経緯が、演技の核にある。つまり想像力を一足飛びに駆け巡らせるのではなく、自分の肚で考えて腑に落ちる解を導き出している。加えて、新入りのジゼル、餌食となるハンス(ヒラリオン)、ジゼルに阻まれて死へと追い込みそこなったアルベルト、自ら率いるウィリたちへの理解、そしてそれらを踊るダンサーへの理解が、立ち姿から滲み出る。舞台を俯瞰する視野の広さ、相手の演技を受け止める懐の深さは一級。これらを兼ね備えた人がいるだけで、舞台は生気を帯びる。
一方、Kバレエカンパニーの若手 矢内は、ギンバイカを持つにふさわしい純潔のミルタ。浮遊感はまるでシルフィードのごとく。スキーピング版『ジゼル』の微笑みながら男を取り殺す、軽やかなミルタを想起させた。美しい腕使い、優れた音楽性、高い技術が矢内の特徴。小柄な体から放射される毅然としたオーラ、本当に宙を飛んでいるような軽やかな跳躍が素晴らしかった。ウィリ・アンサンブルはロイヤル・バレエ直系。ライン、音取りが揃い、激しい凶暴さを見せる。ドゥ・ウィリ(大井田百、戸田梨紗子)の美しい腕使いも、伝統の継承を感じさせた。