2016年公演総括

2016年(含15年12月)の洋舞公演を振り返る(上演順)。

今年は2作の重要な復元・改訂が行われた。江口隆哉の『プロメテの火』(プロメテの火実行委員会・現代舞踊協会)と橘秋子の『飛鳥物語』(牧阿佐美バレヱ団)である。前者は伊福部昭、後者は片岡良和によるオリジナル曲。前者の歌舞伎舞踊、後者の舞楽導入は、日本の洋舞史を考える上で興味深い。橘作品は娘の牧阿佐美が改訂、『飛鳥』と名を改め、身体を取り囲むプロジェクション・マッピングを用いて、新たな舞台演出の方向性を示した。他に、谷桃子の立体的なシンフォニック・バレエ『ラプソディ』(谷桃子バレエ団)が、追悼公演で復元されている。以下はジャンル別の回顧。


[国内振付家・クラシック]
●佐々保樹『火の鳥』(東京小牧バレエ団)
    ―音楽性とチューダー直伝の心理描写に優れる
●松崎すみ子『幻想のメリーゴーランド』(バレエ団ピッコロ)
    ―音楽と融合し、爆発的なエネルギーを発散
●橋浦勇『白鳥の湖』(日本バレエ協会神奈川ブロック)
    ―濃密な内的ドラマを鋭い美意識で描く
●鈴木稔『白鳥の湖』&『迷子の青虫さん』(スターダンサーズ・バレエ団)
    ―音楽性に優れた子供向けダブル・ビル
●関直人『コッペリア』(井上バレエ団)
    ―ドリーブ音楽を独自の音取りで切り取る(誰にも真似できない)+祝祭性
●牧阿佐美『飛鳥』(牧阿佐美バレヱ団)
    ―母橘秋子の構成力にスピーディな音楽性で対抗
●伊藤範子『ホフマンの恋』(日本バレエ協会
    ―優れた音楽性・文学性・演出力で、オペラの精髄をバレエ化
熊川哲也『ラ・バヤデール』(Kバレエカンパニー)
    ―演出・美術への明確なビジョンを実行に移す


[海外振付家・クラシック]
●エルダー・アリエフ『眠れる森の美女』(谷桃子バレエ団)
    ―バレエ・スタイルへの歴史的視野と独創的古典振付を合致させた
●デヴィッド・ビントレー『アラジン』(新国立劇場バレエ団)
    ―アラビアンナイト移民問題をリンク、人類融和を祈る


[国内振付家・モダン&コンテンポラリー]
●貝川鐵夫『カンパネラ』(新国立劇場バレエ団)
    ―初めて聴くリスト、初めて見る動き、音楽の塊
●柳下規夫『冷たい満月』(現代舞踊協会
    ―破天荒なニジンスキー讃歌、ジャズと金盥を使う
●山崎広太『足の甲を乾いている光に晒す』(踊りに行くぜ‼ Ⅱ)
    ―破天荒な土方巽讃歌、米ポップスで舞踏を踊る
●能藤玲子『霧隠れ』(現代舞踊協会
    ―ギリシア悲劇を思わせる時空間に自らの気を充満させた
●金森穣『ラ・バヤデール』(Noism)
    ―プティパの名バレエ・ブランを、コンテンポラリー語彙で書き換えた
●高部尚子『Transparency』(クライム・リジョイス・カンパニー)
    ―音楽的精度の高さ、確信に満ちた動きの追求(一瞬たりとも目が離せない)
●小野寺修二『ロミオとジュリエット
    ―戯曲の読みの深さ、発話と動きの自在な往還、今季最高の『ロミジュリ』
●島崎徹『The Absence of Story』(日本バレエ協会
    ―ハイブリッド・モダンダンス=体によいオーガニック・ダンス
●大植真太郎『忘れろボレロ』(C/Ompany)
    ―禁欲的な肉体は修行僧のよう、断崖絶壁に自らを(他人も)追い込む
●福田紘也『福田紘也』(新国立劇場バレエ団)
    ―自分を踊れるディタッチメント=ユーモアあり、コーラを思い切り飲む
●宝満直也『3匹の子ぶた』(新国立劇場バレエ団)
    ―自分の外に作品を創ることができる、小野絢子ぶたの可愛らしさ


[海外振付家・モダン&コンテンポラリー]
●マルコ・ゲッケ『火の鳥』(アーキタンツ)
    ―東洋武術を含むオリジナル言語を創出、優れた音楽性と出し入れの感覚
●ウヴェ・ショルツ『春の祭典』(アーキタンツ)
    ―映像と実像ダンサーの異なるのが苦しいが、ショルツのもう一つの(真の)声
●マッツ・エック『バイ』(シルヴィ・ギエム〈ライフ・イン・プログレス〉)
    ―ギエムが唯一、自分に嘘をつかなくてすむ振付家フォーサイスと共に20世紀最高の振付家


[女性ダンサー]
長田佳世の金平糖の精、永橋あゆみのオーロラ、西岡樹里(チョン・ヨンドウ)、酒井はなのオーロラ、小野絢子のオーロラ、米沢唯のキトリ、木村優里の森の女王、長田のルビー、ナターリヤ・オシポワのジュリエットとジゼル、井関佐和子のミラン、高部尚子のメイド、志賀育恵のオデット=オディール、スヴェトラーナ・ルンキナの春日野すがる乙女、青山季可の金竜、矢内千夏のキャンドル、本島美和のキャピュレット夫人、酒井のジュリエッタ、小野(宝満直也)、番外(映像):米沢のオーロラ、木村の白雪姫、長田のリラの精


[男性ダンサー]
山本隆之のベルリオーズ、刑部星矢のジークフリード、菅野英男のジェイムズ、宇賀大将(貝川鐵夫)、橋本直樹のデジレ、福岡雄大のデジレ、中家正博のバジル、八幡顕光のアラジン、井澤駿のジーン、クラウディオ・コヴィエッロのバジル、大森康正のアリ、橋本のフランツ、江本拓のフランツ(pdd)、中家のティボルト、浅田良和のホフマン、山本雅也のソロル、番外(映像):浅田のデジレ、高岸直樹のヴィラン(トラヴェスティ)