2014バレエ総評

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2014年バレエ公演を振り返る(含13年12月)。今年最大の出来事は、デヴィッド・ビントレーが、新国立劇場バレエ団芸術監督の4年にわたる任期を終えたことである。ビントレーの功績は、優れたオリジナル作品『パゴダの王子』を創作したこと、批評的なトリプル・ビルを組んで、観客層の拡大を目指したこと、団員の可能性を伸ばす配役により、結果的にバレエ団を有機的な集団に変えたこと、団員創作の場を作ったことにある。文化行政の異なる地で、芸術監督の文化的、社会的な理想形を身をもって示した。


シーズン終盤に上演された『ファスター』、『カルミナ・ブラーナ』、『パゴダの王子』は、ビントレーの音楽性、文学性、ユーモア、誠実さの証しである。オリジナルの『パゴダ』、『アラジン』は当然だが、『カルミナ』、『ペンギン・カフェ』も再演を期待したい。新芸術監督の大原永子は、古典の頂点『眠れる森の美女』新制作でシーズンを開幕した。W・イーグリングによる英国伝統版の導入は、「英国スタイル」と「古典」というバレエ団の未来を予告している。


民間バレエ団では、各座付き振付家が個性を競った。シンフォニック・バレエとマイムが共存する関直人の『眠りの森の美女』(井上バレエ団)、独自の舞踊言語が祝祭性を喚起する清水哲太郎の『シンデレラ』(松山バレエ団)、身内から生み出されたパ・ド・ドゥを核とする中島伸欣の『ロミオとジュリエット』(東京シティ・バレエ団、部分振付・石井清子)、ラディカルな音楽性を誇る鈴木稔の『白鳥の湖』&『くるみ割り人形』短縮版(スターダンサーズ・バレエ団)、音楽的でイメージ造型が明確な熊川哲也の『ラ・バヤデール』と『カルメン』新制作(Kバレエカンパニー)である。


また谷桃子勢として、オッフェンバックの精髄を鷲掴みにし、ダンサーに注ぎ込んだ伊藤範子の『ホフマンの恋』(世田谷クラシックバレエ連盟)、エネルギッシュで機嫌の良い音楽性を持つ岩上純のシンフォニック・バレエ(日本バレエ協会、世田谷)が成果を上げた。メッセレル作品、高部尚子作品と併せて、団の柱として欲しい。


コンテンポラリー・ダンスでは、金森穣が新作『カルメン』で演出を集大成し、感情の迸る優れたソロ、デュオを創り上げた(Noism1×2)。またベテラン間宮則夫の傑作『ダンスパステル』(早川惠美子・博子バレエスタジオ)、島崎徹のオーガニックな『ALBUM』(日本バレエ協会)が印象深い。新国立劇場出身のキミホ・ハルバート(日本バレエ協会)、井口裕之(テアトル・ド・バレエ・カンパニー)、貝川鐵夫、福田圭吾(共に新国立劇場)も若手振付家としての手腕を発揮した。


海外振付家ではプロコフスキー(日本バレエ協会)、ノイマイヤー(東京バレエ団)、ラトマンスキー(ABT)の全幕上演ほか、チューダー(NBAバレエ団)、マクミラン小林紀子バレエ・シアター)、ピンク(NBA)の英国勢、バランシン(新国立劇場)、ショルツ(東京シティ)のシンフォニック・バレエ、ラング(新国立劇場)、ゲッケとユーリ・ン(スタジオアーキタンツ)、フォーサイス埼玉県芸術文化振興財団)のコンテンポラリー作品と、充実していた。


ダンサーでは、女性から上演順に一人一役で、酒井はなのアンナ・カレーニナ、志賀育恵のオデット、沖香菜子のジュリエット、長田佳世のオデット=オディール、林ゆりえの王女、湯川麻美子、米沢唯のフォルトゥナ、熊野文香の時の女王、青山季可のキトリ、井関佐和子のカルメン、長崎真湖(ティペット)、門沙也香(モンテロ)、島添亮子、喜入依里(マクミラン)、田澤祥子のルーシー、小野絢子のオーロラ、本島美和のカラボス。番外は片桐はいり(小野寺修二)。


男性では、梅澤紘貴の勘平、奥村康祐のジークフリート、浅田良和の黒の勇者、藤野暢央のカラボス、岩上純のマルセリーヌ、池本祥真のソロル、山本隆之のオーベロン、福岡雄大の神学生3、菅野英男のパゴダの王子、大森康正(チューダー)、法村圭緒の詩人、大貫勇輔のドラキュラ、風間無限の漁夫の魂。海外ではフランソンのグエン、ムンタギロフのデジレに規範があった。 *『音楽舞踊新聞』No2941(H27.1.1/15号)初出