アキコ・カンダ ダンスカンパニー『哀が散る』 2018

標記公演を見た(6月27日昼 東京芸術劇場シアターウエスト)。プログラムは『灰色の輝くとき』(カンパニー初演70年)と『哀が散る』(93年)のダブル・ビル。前者は、アキコがアメリカから帰国後に指導を始めた宝塚歌劇団で上演された。レパートリーの中では「振付の教科書」と言われる(フライヤー参照)。後者は、母を亡くしたアキコの苦しみと嘆き、そこからの再生を描いた作品で、今回は没後7年になるアキコへのレクイエムとして再演された。振付:アキコ・カンダ、構成・振付:市川紅美。
幕開けの『灰色の輝くとき』は、カラフルなロングドレスを身に纏った7人が、シャルル・アズナブールシャンソンに乗って踊る。ステップを細かく刻む粋な総踊り(振付:市川)を前後に置き、アキコ振付の個性豊かな8つのソロ(コロス付あり)が繰り広げられる。グレアムのボキャブラリーとフォルムに、バレエのパ、時にフラメンコの身振りが加わる振付。グレアムの正面性と、呼吸を伴ったスパイラルの動きが心地よい。両掌を手前に向け、外に捻りながら上に伸ばす独特のフォルムからは、上方へと渦巻くエネルギーが見えた。座位のアラベスクやスプリット、ボレロ風の足踏みなど、地面と密着した動きに加え、重野美和子のソロでは、アラベスクから回転してアチチュードといった難度の高いバランス技も見せて、「振付の教科書」という異名を納得させる。アズナブールの多彩なシャンソンに対し、アキコは不即不離。分析するのではなく、音楽の中に入り込んで一体化するという印象だった。
続く『哀が散る』では、ショスタコーヴィッチの「ロマンス」、バーバーの「アダージョ」、ビゼーの「アダージェット」、マスネの「タイスの瞑想曲」を使用。作曲家も異なり、それぞれ歴史が纏わりつく名曲ながら、母の死、慟哭、磔刑のキリストを思わせる受難、再生にぴたりと当てはまる。アキコの全身を駆使した鋭い音楽性ゆえの選曲と言える。母の死は、死神のような市川が黒バラを逆さに持って現れ、コロス5人の持つ赤バラが瞬時に黒バラに変わることで示される(市川は『灰色』においても濃厚なフラメンコ振りを見せる、アキコのfairに対してdarkな役回りだったのだろうか)。
アキコのパートには重野が配された。濃い紫のオールタイツ。美しく分節された体と明晰なスパイラルで、アキコの嘆きを踊る。個人的なソロを他者(弟子)が踊れるのは、技法が明確だからこそ。振付への渾身の気迫を感じさせる踊りだった。「タイス」では重野も皆と同じグレーのワンピースを着て、生きる喜びを分かち合う。最後は月光の中、7人が緩やかに結び付いて、しみじみとした余情を醸し出した。カーテンコールでは、重野と、重野をサポートした市川の虚脱した表情が印象的だった。アキコを生きたのだろう。出演は他に粕谷理恵、田口恵理子、米田香、田口裕理子、岩崎由美の少数精鋭。