新国立劇場「ダンス・アーカイヴ in JAPAN 2023」

標記公演を見た(6月25日 新国立劇場 中劇場)。現代舞踊協会の制作協力(企画運営委員会代表:正田千鶴)を得て、日本モダンダンスの歴史を概観する企画、その第4弾である。前3回の上演演目は以下の通り。

2014年―『日本の太鼓』(振付:江口隆哉、51年)、『ピチカット』(振付:伊藤道郎、16年)、『母』(振付:高田せい子、38年)、『タンゴ』(振付:伊藤道郎、27年)、『タンゴ』(振付:小森敏、36年)、『タンゴ』(振付:宮操子、33年)、『春の祭典』(振付:平山素子、08年)、『BANBAN』(振付:檜健次、50年)、『食欲をそそる』(振付:石井漠、25年)、『白い手袋』(振付:石井漠、39年)

2015年―『機械は生きている』(振付:石井漠、48年)、『マスク』(振付:石井漠、23年)、『恐怖の踊り』(振付:執行正俊、32年)、『釣り人』(振付:檜健次、39年)、『スカラ座のまり使い』(振付:江口隆哉、35年)、『体』(振付:石井みどり、61年)

2018年―『砂漠のミイラ』(振付:藤井公、93年)、『獄舎の演芸』(振付:若松美黄、77年)、『八月の庭』(振付:庄司裕、94年)

 

今回は前回とは対照的に女性振付家3人の作品が取り上げられた。『土面』短縮版(振付:芙二三枝子、72年)、『夏畑』デュエット版(振付:折田克子、83年)、『マーサへ』より三章「運命の道」(振付:アキコ・カンダ、02年)、『バルバラを踊る』よりソロ「黒いワシ」「我が喜びの復活」(振付:アキコ・カンダ、80年)である。解説トークの片岡康子企画運営委員によると、今回選ばれた3人は独自のメソッドを確立した振付家であるという。

幕開けの芙二三枝子作『土面』は、縄文土器土偶からインスピレーションを受けた作品。高瀬譜希子と中川賢を軸に、男女群舞が縄文模様の衣裳でダイナミックに踊る。中腰、蹲踞、ナンバ歩きなど、日本の体を多用。呼吸法もあると思われるが、そこまでは身体化されていないように見えた。芙二のメソッドを後輩ダンサーが習得することに力点があるのだろう。高瀬のソリッドで「野性的な体」(馬場評)、中川の全身全霊を傾けた踊り、また水島晃太郎の振付ニュアンスの実現などが印象深い(作品責任者:馬場ひかり)。

第二部『夏畑』は、折田克子と泉勝志の踊った伝説的デュエット。その後改訂、群舞も加わり、一晩物にまで発展したという。今回は巨大な麦藁帽子とどてらを纏って、平山素子と島地保武が踊った。島地の大きさとエロス、平山の可愛らしさが、向かい合った動きから伝わってくる。折田晩年の幽玄な体しか知らないため、折田のメソッドが作品に反映されているかは分からず。またどのように伝説的だったのか、その一端をプログラムで紹介して欲しかった(作品責任者:手柴孝子)。

第三部はグレアム(グラーム)・メソッドに自らのスター性、抒情性を加え、独自のスタイルを築いたアキコ・カンダによる2作品。『マーサへ』より「運命の道」は、主役のアキコ役を、マーサ・グラーム舞踊団元プリンシパルの折原美樹が、バルバラを踊る』よりソロ「黒いワシ」「我が喜びの復活」は中村恩恵が踊った。いずれもアキコの代表作だが、折原が振付の基盤となるグレアム・メソッドを抽出し、アキコの抒情性よりもマーサのドラマ性を体現したのに対し、中村はグレアム・メソッドのスパイラルを柔らかく見せ、バレエの身体で自らのラインを描き出した。アキコの踊りではないが、中村の踊りになっている。華やかなアキコ・カーテンコールも、中村の鎮まりかえったコールに変貌を遂げた。

因みに『マーサへ』の音楽は、ショパン作曲『悪魔のロベールの主題による協奏的大二重奏曲』を使用、生演奏(vc. 荒井結、pf. 秋元孝介)で上演された。また白い蝶のような少女二人と、頭巾を被った巡礼風の女性たちが冥界を示唆している(作品責任者:市川紅美)。

現代舞踊協会夏期舞踊大学講座 2017「モダンダンスの巨星 マーサ・グレアム」についてはコチラ