牧阿佐美バレヱ団『三銃士』2019

標記公演を見た(10月5日 文京シビックホール 大ホール)。

振付のアンドレ・プロコフスキーは、1939年パリ生まれ。シャラ、バビレ、プティのカンパニーで踊った後、ロンドン・フェスティバル・バレエ、グラン・バレエ・ド・マルキ・ド・クエバス、NYCBで踊る。72年パートナーのガリーナ・サムソワと共に、ニュー・ロンドン・バレエを設立。振付家として主に英語圏で活躍した。09年逝去。日本では、井上バレエ団『ファウスト・ディヴェルティメント』(81年、04年)、同『ロミオとジュリエット』(04年)、日本バレエ協会アンナ・カレーニナ』(92年、98年、2014年)、牧阿佐美バレエ団『三銃士』(93年、以降レパートリー化) 、法村友井バレエ団『アンナ・カレーニナ』(06年、以降レパートリー化)の上演がある。

プティ、ベジャール、クランコ、ダレル、マクミランより15~10歳下、ノイマイヤー、マッツ・エク、キリアンより3~8歳上という、モダンバレエとコンテンポラリーバレエに挟まれた位置にありながら、振付語彙はあくまでダンス・クラシック。優れた音楽性、精緻で洒脱な演出、高難度の振付が特徴である。自身も華やかで大胆な技術の持ち主として知られ、舞踊史家 薄井憲二氏のエッセイにも、水平に飛行するカブリオールについての記述がある(『バレエ千一夜』新書館、1993 *薄井氏はのちに、教え子の松井学郎にその技を習得させた)。

以下は、2010年に書いた『三銃士』評の一部(『音楽舞踊新聞』No.2810初出)。

牧阿佐美バレヱ団の貴重なレパートリー『三銃士』が5年ぶりに再演された(93年バレエ団初演)。振付家アンドレ・プロコフスキーは昨年の八月に逝去、一月の法村友井バレエ団『アンナ・カレーニナ』におけるカーテンコールが、日本での最後の姿となった。

プロコフスキー作品の最大の特徴は演出の職人的な緻密さ、巧みさにある。スムーズで一分の狂いもない場面転換、紗幕の効果的使用、さらにマイム無しで物語の細部を生き生きと活写する技術。重要なのはこうした演出がこれ見よがしでなく、洒脱に実行される点である。まるで自分の痕跡を残すことが恥ずかしいとでも言うように。

振付も極めて高度な技術を要するが、技巧のためではなく役がそれを要求するのである。シックで華やか、大胆で繊細、しかも品のある振付は、時代と才能が結びついて初めて生み出される奇跡と言える。

今回 仕上がりは素晴らしく、プロコフスキーの意図するところがよく分かった。ロバのシーンを始め、ユーモアのツボも外さず。男性的、叙事的なヴェルディの音楽(編曲:ガイ・ウールフェンデン)と合致した、あっけらかんとした明るさを保っている。

ダルタニヤンのドミートリー・ソボレフスキー(モスクワ音楽劇場バレエ プリンシパル)は、複雑なパートナリング、素早い「首飾り大団円」には手こずったが、豪快で素朴な踊りが役に合っている。コンスタンスの青山季可、ミレディの中川郁、アンヌ王妃の茂田絵美子、ポルトスの清瀧千晴、バッキンガム侯爵の菊地研、ロシュフォールの塚田渉、リシュリュー枢機卿の保坂アントン慶、国王ルイ13世の今勇也は、持ち役を存分にこなし、初役のアトス 水井駿介、アラミスの山本達史も、美しい踊りで役どころを押さえた(初日所見)。

特に、青山の控えめな佇まいと鋭い体の捌き、保坂、塚田の熟練の演技は印象深い。三銃士は踊りの切れもよく、揃っているが、旗印となるアラベスク・パンシェはもう少し我慢が必要だろう。男女アンサンブルは持ち味の音楽性に、生き生きとした陽性の演技が加わり、シャンパンのように軽やかな舞台を演出した。

前回に続く指揮のウォルフガング・ハインツが、骨格の際立つ音作りで、東京オーケストラ MIRAI からヴェルディの味わいを引き出している。