牧阿佐美バレヱ団ローラン・プティの『デューク・エリントン・バレエ』

昨秋、牧阿佐美バレヱ団が上演したオリジナル・レパートリー、ローラン・プティの『デューク・エリントン・バレエ』評をアップする。

牧阿佐美バレヱ団が優れたオリジナル・レパートリー『デューク・エリントン・バレエ』を上演した。01年、バレエ団の創立45周年記念として、モダンバレエの巨匠、ローラン・プティが振り付けた作品である。国内外で再演を重ね、東京では三度目となる。
初演時には、プティ自らが見出した若い才能、上野水香、正木亮を始め、草刈民代、小嶋直也、森田健太郎、志賀三佐枝等の主力組に対して振付が行なわれた(森田と志賀には結婚祝いのデュエットも)。
当時の印象および、映像を見直してみても、プティがダンサーの才能の核心を見抜き、それを開花させるように振り付けていることがよく分かる。バレエ団は天才プティの初演作品を踊るという、得難い経験をしたのである。
 現行版は再演を経て、かなりコンパクトにまとめられた。プティ自身のキャスティングが不可能になり、そのスピリットが保たれるのか懸念があったが、ルイジ・ボニーノの振付指導と、振付そのものの力により、作品の普遍的力を示すことに成功している。
新キャストでは、『Hi-Fi Fo Fums』を踊ったラグワスレン・オトゴンニャムが新境地を拓いた。初演キャスト、小嶋の持つ体操的資質を舞踊化した作品だが、オトゴンニャムの爪先、脚線、全身の美しさ、柔軟さがいかんなく発揮される。体操用具(?)の上で両脚を上げ、逆さでパを行なう振付の面白さを浮き彫りにした。
 上野のために作られたゴージャスな女王風の『Solitude』では、吉岡まな美が全く別のニュアンスを作品に与えている。上野の少女のコケットリーから、吉岡の成熟した大人の色香への変化。棒を持った男たちをかしずかせ、振付自体の魅力を明らかにした。
『The Opener』菊地研の華やかさ、ベテラン逸見智彦、保坂アントン慶の存在感に加え、新進の中家正博が随所で切れの良い、美しい踊りを見せる。また、かつて上野=ボニーノが可愛く踊った『Cotton Tail』では、伊藤友季子の相手役を務めた坂爪智来が、温かく軽妙な演技を披露。伊藤は音楽的だが、もう少し重量感が望まれる。
バレエ団のプリマ、草刈の位置には、二月の『ノートルダム・ド・パリ』に引き続き、ボリショイ・バレエのマリーヤ・アレクサンドロワが、デニス・サーヴィンを伴って来日した。
初演時、シャーロット・タルボットの踊った『Sophisticated Lady』でのコケティッシュな女らしさは、アレクサンドロワから最も遠い役どころだろう。ミスキャストのような気もするが、真正面からの演技、直球勝負に好感が持てた。
一方、『Afrobossa』『Ado Lib on Nippon』では、ゴージャスな存在感、男たちを引き連れるプリマぶりで本領発揮。団員とのコミュニケーションも誠実で、作品の見事な核となったが、本来はバレエ団のプリマが受け継ぐべき仕事である。
日本で最もチョーカーの似合う女性アンサンブル、充実の男性アンサンブルがすばらしい。特に『Caravan』の上半身裸の男性群舞が、アラブ風の腕組みで首を前後に動かし、奇妙なカノンを繰り返す姿には、胸が熱くなった。プティの愛、プティの遺産を目の当たりにしたからである。
音楽はプティの希望で、1950〜60年代のスタジオおよびライブ録音を使用。バレエ団の華やかな音楽性がよく生かされた貴重なレパートリーである。(11月11日 新国立劇場中劇場)   『音楽舞踊新聞』No.2893(H25・3・11号)初出