「NHK バレエの饗宴 2024」

標記公演を見た(1月27日 NHK ホール)。今現在の洋舞シーンを映像に残す貴重なアーカイブ公演である(後日 Eテレで放送予定)。3部構成の第一部は、東京シティ・バレエ団による『L'heure bleue』、第2部は永久メイ&フィリップ・スチョーピンによる『眠れる森の美女』からGPDD、金子扶生&ワディム・ムンタギロフによる『くるみ割り人形』からGPDD、中村祥子&小㞍健太による『幻灯』、第3部は新国立劇場バレエ団による『ドン・キホーテ』第3幕。井田勝大の指揮、東京フィルハーモニー交響楽団の演奏が、バレエ団の垣根を越えた祝祭的公演を牽引した。

幕開けの『L'heure bleue』は、東京シティ・バレエ団のレパートリー。ハンブルク・バレエ団で活躍したイリ・ブベニチェクの振付である。額縁をモチーフとした舞台美術、バロック風衣裳に、バロック音楽を使用。西洋の耽美的な恋模様を、バレエベースのコンテンポラリー語彙で描いている。今回来日した振付家直々の指導が入り、バレエ団の美しい古典スタイルとコンテンポラリーの動きが、極限まで磨き抜かれた。

悠然と男達をあしらう主役の岡博美、美脚を披露する男装の植田穂乃香、折原由奈、ワンピース姿の可愛らしい平田沙織、石塚あずさの女性陣に対し、成熟した魅力の沖田貴士、目の覚めるような鮮やかな踊りの吉留諒、岡田晃明、林高弘、さらに無邪気なエロス福田建太の男性陣が、恋の駆け引きを実施。岡の懐の深さ、吉留の覇気あふれる美しい踊り、福田の無意識の半裸体が、作品に立体的な陰影を与えている。

作品の土台となった音楽構成のうち、バッハの「二つのヴァイオリンのための協奏曲」は、辻彩奈と竹内鴻史郎(辻は「ヴァイオリン協奏曲第2番」も)、同じく「チェンバロ協奏曲第5番」ラルゴ、「6つのパルティータ」は五十嵐薫子(Pf.)の演奏。鮮烈なヴァイオリンに心駆り立てられ、夢のようなピアノ(ラルゴ)によって、神話の世界へと誘われる。生演奏の醍醐味を最も味わえた作品だった。

第2部は3つのパ・ド・ドゥ。マリインスキー・バレエの永久メイとスチョーピンは、お家芸の『眠れる森の美女』を踊った。永久は前回出場時よりも大人びた風情。気品、精神性の高さはそのままに、匂やかなオーロラをゆったりと演じている。ロシア派の美点である芸術への敬意が、繊細でしなやかな踊りから滲み出た。

英国ロイヤル・バレエの金子扶生とムンタギロフは、ライト版『くるみ割り人形』からGPDD。金子は重みのある金平糖の精で、主役を歴任してきた存在感を示した。コーダは溌溂と思い切りがよく、金子本来の素顔を垣間見せる。ムンタギロフはにこやかで丁寧な踊り。公演最後のフィナーレでは第3部の主役、新国立劇場バレエ団の米沢唯と隣り合わせになり、『マノン』での二人の熱演を思い出させた。

ウィーン国立、ベルリン国立、ハンガリー国立の各バレエ団で踊り、帰国後 K バレエカンパニー(現 K-BALLET TOKYO)で活躍、現在フリーとなった中村祥子は、小㞍健太の『幻灯』を小㞍と踊った。リヒターによるヴィヴァルディ『四季』の変奏(録音音源)を使用、四季の移り変わりを人生と重ね合わせる。照明、スモーク、カーテンが、暗転と共に、空間を変幻させた。中村は裸足とポアントを使い分け、2つのアダージョと軽快なソロを踊る。そのよく考えられた緻密な体遣いに圧倒された。これまでの経験が蓄積となって生かされている。小㞍は回転技の多いスタイリッシュなソロで持ち味を発揮。アダージョでは中村の良さを引き出すべく、黒衣に徹した。ベテラン二人の現在が響き合うデュエットだった。

第3部は新国立劇場バレエ団『ドン・キホーテ』第3幕。シーズン開幕公演の熱気をそのままNHKホールに移し込んだ。キトリの米沢唯は本拠地と全く変わらず。舞台と客席に晴れやかなオーラを降り注ぐ。鋭い回転技、長いバランスなど、高い技術は言うまでもなく、その場で自分を捧げ切る姿勢に、あるべきプリマの姿が見える。対する速水渉悟は高い跳躍と美しい踊りが特徴。米沢キトリと丁々発止の小粋なバジルだった。

第1ヴァリエーションの山本凉杏、第2ヴァリエーションの直塚美穂は、次代を担う逸材。山本の古典の味わいと落ち着き、直塚の伸びやかさが、清々しいグラン・パ形成の一翼を担った。川口藍、中島瑞生による艶やかなボレロ、華やかなファンダンゴ、活きのよいアンサンブルに、ドン・キホーテの趙載範、サンチョ・パンサの福田圭吾を始めとする立ち役の面々がよく心得て、豪華全幕のクライマックス再現となった。