シュツットガルト・バレエ団『白鳥の湖』

クランコ版(63年)を初めて見る。第一印象は音楽をかなりいじっているということ(原曲使用あり)。一幕はワルツ(?)、トロワを省略、その代わりにパ・ド・シスで王子と女性(町娘とのこと)5人が踊る。次に王妃のくだり、そして乾杯の踊りになる。王子はジプシーの占い女に化けて登場し、ウォルフガングの曲でソロを踊るので、よく踊る王子。
二幕ロットバルトは冑とマントを身につけて、フクロウには見えず。
三幕も個性的。宮廷に子ども達の姿がある。花嫁候補はポーランド、スペイン、ナポリ、ロシア、そしてオディールがロットバルトのマントから現れる(退場も同じくマントの中へ)。民族舞踊が面白い。元の舞踊に遡っていると思われる。黒鳥のPDDソロは王子が新発見曲、オディールは蘇演版王子のソロで踊った(本来は女性用だったから?)。
四幕のPDDは別曲を使用。王子は波にのまれて死に、オデットは白鳥に戻る。
全体にブルメイステル版(53年)の影響を感じる。一方ヌレエフ版(64年)はクランコ版の影響大。

ジークフリートエヴァン・マッキー(トロント出身)。総じてシュツットガルトの男性ダンサーは一昔前のダンスール・ノーブルの趣を留めている。爪先が美しく、足音がしない(コール・ド・バレエもポアント音なし)。また規範に則った正確な技術が素晴らしい。地元出身のフォーゲルは傍系に思えるほど。新国立にゲスト出演したリー・チュンも古風なジークフリートだったが、やはりシュツットガルトに客演しており、バレエ団の明確な美意識を感じさせる。

50年間同じ版を踊り継ぐことで、新作が古典になる。シュツットガルトの観客は『白鳥』と言えばこの版を思い浮かべる訳で、舞台体験の偶然性と絶対性を思う。