2013バレエ総評

標記総評をアップする。

2013年バレエ公演を首都圏中心に振り返る(含12年12月)。


今年はトリプル・ビル形式に優れた公演が集中、組み合わせの妙を堪能した。上演順に、新国立劇場バレエ団(バランシン、ビントレー、サープ)、NBAバレエ団(フォーキン=ヴィハレフ、ミシューチン)、Kバレエカンパニー(熊川哲也、スカーレット、熊川)、新国立(バランシン、ビントレー、ビントレー)、東京シティ・バレエ団(フォーキン、石田種生、ショルツ)、スターダンサーズ・バレエ団(バランシン、ロビンズ、バランシン)、新国立(フォーキン、バランシン、ニジンスカ)である。


新国立の3つのトリプル・ビルが観客の思考と感覚に新たな刺激を与え、最後の「ストラヴィンスキー・イブニング」で観客層の拡大にも成功したことは、バレエの国内上演史上、画期的な出来事である。批評性の高いプロデューサーで、優れた振付家のビントレー芸術監督は今季限り。団員創作公演「First Steps」を立ち上げ、静岡への『ペンギン・カフェ』ツアーと地元ワークショップを実施、アウトリーチ活動への端緒を開いた。今後も文化的啓蒙の一端を担える公共的なバレエ団であることを期待したい。


トリプル・ビルの演目としては圧倒的にバランシンが優位。クラシック・ベースで音楽的、さらに独自の振付語彙とフォーメイションが、現在でも前衛たり得る野蛮さを纏っているからだろう。今年はNYCBも来日し、驚異的な足技で本家の貫禄を見せつけた。バランシンの持つ華やかな一面は失われ、質実なプロテスタント的集団と化してはいるが。


創作全般を眺めると、物語バレエでは、優れたオリジナル曲を十全に生かした川口ゆり子・今村博明の『天上の詩』(バレエシャンブルウエスト)、一人三主役を断行した篠原聖一の『femme fatale』(Dance for Life実行委員会)、コメディア・デラルテを導入した伊藤範子の『道化師』(谷桃子バレエ団)が興味深い。シンフォニック・バレエでは、堀内元の明晰さ(バレエスタジオHORIUCH)、樫野隆幸の精緻さ(日本バレエ協会)、熊川哲也の清潔さ(Kバレエ)が音楽と共振、魅力を発散した。


コンテンポラリーでは、平山素子の情念とクールな思考が交差するソロ版『ボレロ』(新国立劇場)、金森穣の覇気あふれる『solo for 2』(Noism、新国立劇場)、小尻健太の繊細な女性群舞作品『夕映え』(日本バレエ協会)。また鈴木稔のかわいいコンテ風雪片のワルツは快挙だった(スターダンサーズ)。番外は、瀬山亜津咲のバウシュ・メソッドを自ら生き抜いた力強い演出である(さいたまゴールドシアター)。


海外振付家ではアシュトン、マクミランに続き、ビントレー、ウィールドン、スカーレットと英国勢が活躍。若手のスカーレットはKバレエに自然で野性味のある新作を振り付けている。また主役はギエムだが、エックのお転婆系『カルメン』を東京バレエ団が導入、破天荒なエック振りを見事に咀嚼した。さらに腹式呼吸のようなサープの脱力系『イン・ジ・アッパールーム』が、新国立のクラシックスタイルを破壊した事件もあった。


ダンサーでは女性から上演順に、米沢唯のシンデレラ、厚木三杏(サープ)、米沢のジゼル、酒井はなのオデット、長田佳世(中村恩恵)、荒井祐子(熊川)、本島美和(ビントレー)、青山季可のオデット=オディール、米沢のキトリ、小野絢子のキトリ、西川貴子のギターの踊り、志賀育恵(ショルツ)、林ゆりえ(バランシン)、島添亮子のマノン、下村由理恵のカルメン+マルグリット+サロメ、長崎真湖のシルフィード、小野の火の鳥、米沢の火の鳥、長田(バランシン)。


男性ダンサーは、福田圭吾(サープ)、黄凱のアルブレヒト、大森康正のピエロ、福岡雄大(中村、金森)、福岡のバジル、菅野英男のバジル、山本隆之のドン・キホーテ、吉本泰久のサンチョ・パンサ、古川和則のガマーシュ、三木雄馬カニオ、吉瀬智弘の牧神、梶田眞嗣のイワン王子、森田健太郎のスニーガ、山本のアルマン、福岡(ニジンスカ)。番外は、ベケットを踊る山崎広太である(ARICA)。
『音楽舞踊新聞』No.2916(H26.1.1・11号)初出