2013年12月公演 『くるみ割り人形』/『ザ・カブキ』

標記公演評をアップする。

2013年『くるみ割り人形』他


●牧阿佐美バレヱ団
 12年目を迎えた三谷恭三版。D・ウォーカーの奥行きある美術、P・ピヤントの機動的な照明が豪華な舞台空間を作り上げる。演出の見所は日常から異空間へのスムーズな移行。ドロッセルマイヤーは壁から、王子は客間のドアから登場し、客間が徐々に分解して雪の森に変わる。
 金平糖の精の青山季可は、力みのない踊りと全身が微笑んでいるような佇まいが魅力。王子の京當侑一籠は包容力があり、青山とのパートナーシップも親密。雪の女王久保茉莉恵の自然な大らかさも加わり、人間的で暖かみのある舞台作りだった。本多実男のノーブルなドロッセルマイヤー、細野生の不思議な甥、篠宮佑一の切れ味鋭いハレーキン及びチャイナ他、ソリスト陣は見応えあり。ガーフォースのメリハリある指揮に、東京ニューシティ管弦楽団が機敏に応えた。(12月14日 ゆうぽうとホール)


●スターダンサーズ・バレエ団
 昨年初演のコンテンポラリーダンス入り鈴木稔版。振付は全て音楽的で、鈴木独自のアクセントが入る。雪片のワルツをかわいい雪ん子たちが踊るのがミソ。少女クララの成長と人形世界での冒険譚が、鈴木らしい家族愛に包まれて描かれる。各国のダンサーが一幕の人形芝居にも登場するため、『くるみ』の欠点である一、二幕の断絶が解消された。美術・衣裳はD・バード。ニュルンベルクのクリスマス市、芝居小屋のあやつり人形や書き割りの裏が見える舞台裏(ホフマンの闇!)、ドールハウス仕様の人形の国全てが素晴らしい。足立恒の照明も魔術的だった。
 クララの林ゆりえはみずみずしい演技、伸びやかなライン、確かな技術で少女の内面世界を描き出す。王子の吉瀬智弘もたくましくなり、カーテンコールではやんちゃ振りを発揮。存在感のある鴻巣明史のドロッセルマイヤー、味のある東秀昭の酔っぱらい父を始め、子供から大人まで活気ある演技が舞台を彩った。田中良和の情熱的な指揮がテアトロ・ジーリオ・ショウワ・オーケストラ、ゆりがおか児童合唱団から豊かな音楽を引き出している。(12月23日 テアトロ・ジーリオ・ショウワ)


●Kバレエカンパニー
 05年初演の熊川哲也版。ホフマン原作からクルカトゥクくるみのエピソードを加え、自動人形の子役で説明、ねずみ顔から癒されたマリー姫が王子とパ・ド・ドゥを踊る。スピーディ、エネルギッシュ、少しドライな熊川の特徴が全幕に充満。ソナベンドとトラヴァースの美術、特に巨大化したツリーの迫力は他の追随を許さない。
 マリー姫の佐々部佳代は確かな技術に華やかな存在感、透明感を持ち合わせるプリマ候補。よく開いた美しい脚線の王子、池本祥真と共に今後が期待される。またドロッセルマイヤーの杉野慧がキャシディ直伝のノーブルな演技で舞台を大きく統率した(以上初役)。王妃役柄本まりなの気品あふれるマイムを始め、祖母、年配の使用人など、一幕の演技は自然。英国流が身に付いている。雪のアンサンブルは七公演目にもかかわらず、通常より早いテンポのワルツを見事に踊り切って、プロの気概を示した。(12月24日夕 赤坂ACTシアター)


●バレエ団ピッコロ
 クリスマス公演第30回を記念して、松崎すみ子版『くるみ割り人形』を上演(通常は別作品)。第一回から出演の菊沢和子、北原弘子、小原孝司に松崎えり、常連ゲストの小出顕太郎、大神田正美、篠原勝美等の芸達者が脇を固め、松崎らしい子供目線の演出を支えている。乳母、メイド、ボーイの絡み、酔っぱらいおじさんが絶妙の味。一幕の子供たちの演技も素晴らしい。子役としての演技ではなく、現時点での成長を反映させた演技。子供による子供のための舞台空間だった。
 金平糖の精には下村由理恵、王子には佐々木大。両者ともバレエ団との擦り合わせが弱く、また本調子には見えなかったが、そこはベテラン。役のあるべきスタイルを見せている。クラシック場面では下村門下の藤平真梨、南部美和が規範に則った踊りを、また小出が美しく献身的な踊りを披露して、30回目を寿いだ。(12月25日 東京芸術劇場プレイハウス)


東京バレエ団
 四十七士の討ち入りに合わせてベジャールの『ザ・カブキ』(86年初演、185回目)を上演。黛敏郎の委嘱曲に、ベジャールの天才的な『仮名手本忠臣蔵』解釈が炸裂する。バレエ団のアイデンティティを支えるオリジナル作品である。
 Wキャスト二日目の由良之助は森川茉央。初役とあって、まだ動きからエネルギーが漏れているが、大きさ、気品があり、先行ダンサーとは異なるタイプの由良之助となるかもしれない。顔世には美しいラインの渡辺理恵。溝下司朗、吉田和人の品格ある伴内は、岡崎隼也が受け継いでいる。
 何より素晴らしかったのが、梅澤紘貴と吉川留衣のおかる勘平。梅澤の二枚目ぶりと暖かいパートナーシップ、吉川の清潔な愛らしさが絡み合い、うっとりする道行き、哀感極まる切腹だった。また終幕のソロで、新国立劇場バレエ研修所出身の入戸野伊織が、動きの精度、音楽性に優れた踊りを披露し、新世代の台頭を予感させた。(12月15日 東京文化会館) 
               『音楽舞踊新聞』No.2917(H26.1.21号)初出