PDA東京公演『ZERO』

標記公演を見た(5月29日 シアターコクーン)。PDAは Professional Dancers' Association の略で、樫野隆幸を会長に戴く男性バレエグループ。関西近辺のダンサー達だが、名古屋の人も。今回が初の東京お目見えだった。
バレエ作品は日本ではまだ古典中心のため、女性ダンサーに活躍の場が多い。例外は東京バレエ団ベジャール物)、Kバレエカンパニー(熊川物)、新国立劇場バレエ団(ビントレー物)。関西のバレエダンサーのレベルは高く、男性達をもっと踊らせたいというのが、設立理由だろうか。今回は余興として、ローザンヌとユースアメリカグランプリで一位を取った、二山治雄が出演、浅野郁子振付のコンテンポラリー・ソロと、ソロルのヴァリエーションを踊った。
本編は3作、すべて創作物だった。幕開けの篠原聖一振付『Thread』は、蜘蛛の糸の意。プロコフィエフのピアノ協奏曲(?)とポール・サイモンの歌を組み合わせて、男性(当たり前だが)11人が踊る。末原雅広を中心とする猿軍団の中に、糸ならぬ太いロープで佐々木大が降りてくる。末原と佐々木の対決や何やかやが、プロコフィエフの曲想に合わせて集団に湧き起こる。地獄谷温泉に女装の猿など、盛り沢山の展開。振付は猿歩きを基本に、クラシックの華やかなパが繰り出される。最後は佐々木が上に上がって終わる。なぜ猿にしたのか。これが大阪色なのか。篠原のノーブルなスタイルはクラシックの場面で見ることができたが、グループとのこれまでの経緯を知らないので、呆気にとられるばかりだった。
真中は島崎徹の『Patch Work』。ガムラン風や民族音楽風の音楽で、男性11人が踊る。パッチワークなので、筋はなく、腹ばいで腕を伸ばし、床を爪でカツカツと叩く動きが始まりと終わりにある。動きは島崎が一から作ったもの。所々モダンダンスを思わせる風もあるが、規範はこれといってなく、分析しようとすると疲れるが、身を任せると面白い。特に男性デュオは肉と肉とのぶつかり合いで見ごたえあり。他の二作にデュオがないので、余計に目立った。最後の挨拶は、浅い蹲踞の姿勢から、一人づつひょいと立ち上がる。面白い。勤務先の神戸女学院のイメージとうまく結びつかない。グレアムで教えているそうだが。
最後は矢上恵子の『ZERO』。バッハの『ミサ曲ロ短調』とミニマルな音楽を組み合わせ、特攻隊をモチーフに創った作品。15人の男性ダンサーが、スタイリッシュな踊りを繰り広げる。以前に比べるとやや穏やかになった感も。それでも男性ならではのエネルギーが終始炸裂し続ける。クリエイティヴな動きに圧倒されるが、作品自体の規格はショーダンスにある。観客を熱く鼓舞する形式。そこが島崎と対照的なところだ。
主役の山本隆之は、矢上のスタジオ出身。手の内に入った振付を、ミリ単位の音感で鮮やかに踊る。以前新国立の『R&J』初演時に、森田のロミオ、熊川のマキューシオ、山本のベンヴォーリオで「マスク」を踊ったことがあるが、あれほど音楽性に秀でた3人組を見たことがない。山本はノーブルな佇まい、ドラマ及び振付の深い解釈、盤石のサポートが美点とされるが、優れた音楽性を加えなければならなかった。
これだけの作品とダンサーを結び付け、纏め上げる樫野会長の手腕は言うまでもないが、一方で振付家としての(もちろんダンサーとしての)手腕も優れている。昨年「全国合同バレエの夕べ」で発表した『コンチェルト』は、その精緻なフォーメイションと動きの瑞々しさが素晴らしかった。女性アンサンブルだったので、今度は同じ振付で男性アンサンブルを見てみたい。