「NHKバレエの饗宴」2014

標記公演評をアップする。

「NHK バレエの饗宴2014」が開催された(主催 NHK、NHKプロモーション)。今年で三回目となるこの企画は、国内のバレエ団と優れたゲストダンサーが一堂に会する貴重な機会である。さらに、日本のバレエ団の現在を映像記録として残し、観客層の拡大にも寄与するなど、日本のバレエ文化の底上げに大きく貢献している。今年の演目は、古典バレエの一幕抜粋、シンフォニック・バレエ、ロマンティック・バレエのパ・ド・ドゥ、コンテンポラリーダンスのデュオと、バラエティに富む組み合わせだった。


幕開きはスターダンサーズ・バレエ団による『スコッチ・シンフォニー』。メンデルスゾーンの同名曲を使ったバランシン作品は、ロマンティック・バレエをベースに置きながらも、意表を突く作舞で独自の音楽解釈を炸裂させる。林ゆりえ、吉瀬智弘の若手主役が、柔らかい踊りで物語性を喚起し、男女アンサンブルは音楽性と清潔な足技で、バレエ団と振付家の濃密な関係を証明した。


続いてはコンテンポラリーダンサー島地保武とバレエダンサー酒井はなのユニット、アルトノイによる『3月のトリオ』。バッハの無伴奏チェロ組曲(演奏・古川展生)をバックに、島地はフォーサイスと武術を組み合わせたハードな振付を男らしく、酒井はややバレエ寄りの振付をポアントで生き生きと踊った。一貫して島地の迎合しない野生的な空間での、離れたデュオだった。


休憩を挟んだ第2部は、ベジャールダンサーの首藤康之と、キリアンダンサーの中村恩恵が、独特の存在感を発揮した『The Well-Tempered』から。バッハの平均律(演奏・若林顕)を用い、スタイリッシュな照明を駆使する美しいデュオである。踊りは二人の手の内に留まるが、観客の目に優しい、よく出来たコンサート・ピースだった。


続いては神戸市を本拠とする貞松・浜田バレエ団の『ドン・キホーテ』第一幕。男女アンサンブルからマイム役、子役までバレエ団が勢揃し、アットホームな舞台を作り上げる。キトリの瀬島五月は圧倒的な存在感と演技で、バジルのアンドリュー・エルフィンストンは大きく伸びやかな踊りで中心を務め、ドン・キホーテの岩本正治サンチョ・パンサの井勝らと共に、祝祭的な古典バレエの空間を形成した。


二部の最後は元英国ロイヤルバレエ団プリンシパル吉田都と、シュツットガルト・バレエ団プリンシパルのフィリップ・バランキエヴィッチによる『ラ・シルフィード』からパ・ド・ドゥ。バットリーの多いハードなブルノンヴィル・スタイルに両ベテランが挑戦。吉田の清潔で軽やかな踊りと、バランキエヴィッチの重厚で激しい踊りは見応えがあった。


第三部は元ライプツィッヒ・バレエ団芸術監督ウヴェ・ショルツの『ベートーベン交響曲第7番』を東京シティ・バレエ団が踊って、華麗な饗宴を締め括った。ショルツのシンフォニック・バレエはバランシンに比べると、少し田舎くさく暖かみがある。バランシンが音楽を軽やかに超越して、華やかな語彙をエネルギッシュに繰り出す視覚派なのに対し、ショルツは音楽をじっくり味わった後、身体(皮膚)感覚を通して一つ一つ振付を紡いでいるように見える。特に音楽に沿ったシークエンスの素直な繰り返しは、何とも言えない滋味を醸し出す。志賀育恵の磨き抜かれた美しい体(特に脚)によるアダージョが素晴らしい。また玉浦誠の切れの良い正確な踊りが作品の鋭いアクセントとなった。古典の様式を踏まえたアンサンブルは音楽性にも優れ、振付家の意図を十全に伝えている。


フィナーレは全員が踊りながら登場し、吉田を中心とした華やかなカーテンコールで幕となった。演奏は大井剛史指揮、東京フィルハーモニー交響楽団。(3月29日 NHKホール) *『音楽舞踊新聞』No.2927(H26,6,1号)初出