東京シティ・バレエ団「ウヴェ・ショルツ・セレクションⅡ」2021

標記公演を見た(1月24日 ティアラこうとう大ホール)。演目は、日本初演の『Air !』(82年 シュツットガルト・バレエ団)、団初演の『天地創造』よりパ・ド・ドゥ(85年 チューリッヒ・バレエ団)、再演の『オクテット』(87年 チューリッヒ・バレエ団)の3作。ウヴェ・ショルツ(58~04年)初期作品群である。指導は、ライプツィヒ・バレエ団でショルツの薫陶を受けた ジョヴァンニ・ディ・パルマ、木村規予香による。

東京シティ・バレエ団が最初にショルツ作品を導入したのは、13年の『ベートーヴェン交響曲第7番』(91年 シュツットガルト・バレエ団)だった。「音楽性の優れたバレエ団」を目指す 安達悦子芸術監督の希望による。同作は14年「NHK バレエの饗宴」で再演、16年都民芸術フェスティバル参加公演で再々演された。17年には『オクテット』団初演。18年「ウヴェ・ショルツ・セレクション」で『ベト7』と『オクテット』をダブル上演、19年に再び「NHK バレエの饗宴」で『オクテット』を再々演し、今回の「セレクションⅡ」に至る。

幕開きの『Air !』は、バッハの「管弦楽組曲第3番」に振り付けられたシンフォニック・バレエ。第2楽章の有名な「アリア(エア)」を含む。ショルツ24才の作品だが、若書きの印象はなく、すでに独自のスタイルが確立されている。左右に移動する二次元美の追求(アラベスクへの執着)、カノンの楽しさ、繰り返しの懐かしい喜び、モダンの語彙を含む動きの自在さ(前後に開いたポアント立ちの両脚をブルブルさせて、トリルを表す)など。バランシンの音楽性が視覚に訴えるのに対し、ショルツの音楽性は胸、肚、皮膚を直撃する。音楽の腑分けが、ショルツの体全体を通して行われ、動きが快楽と共に生み出されているからだろう。

白、黄土色、海老茶それぞれのオールタイツを、男女が身にまとい、総勢14名のダンサーが踊る。ショルツ・ダンサーの佐合萌香、華やかな中森理恵、献身的にサポートする土橋冬夢、ノーブルな濱本泰然による第2楽章エアは、シルエットから始まり、女性の浮遊するラインの美しい軌跡を描き出す。第4楽章ブーレでは、土橋が全てを出し切る情熱的な踊りを見せた。アンサンブルを率いる玉浦誠の技量と優れた音楽性が、ショルツ振付のニュアンスを実現している。

続いて上演された『天地創造』からパ・ド・ドゥは、ハイドンの同名オラトリオを舞踊化した全幕作品からの抜粋。第3部のアダムとイヴによる愛の二重唱(バスとソプラノ)が踊られる。アダムの力強さ、イヴの嫋やかさを、キム・セジョンと佐合が体現。キムはこれまでにない逞しさを見せたが、さらなる情熱を期待したい。佐合は「するするする」(小山久美 スタダン総監督)と独特の踊り方で、ショルツ振付の切れを滑らかに見せる。しっとりとした中に、何があっても受け止める芯の強さを感じさせた。

4回目の『オクテット』は、メンデルスゾーンの「弦楽八重奏曲」に振り付けられた作品。バッハの『Air !』と似たような構成(総踊り、アダージョ、男性ソロ、総踊り)ながら、動きの面白さが際立っている。音楽が要請するのだろうか。急にポアント立ち、急にアラベスク、急に直立倒れ、急に女性の膝を抱える、など。思わず頬が緩む。もちろん心を温める繰り返しの喜びも。第2楽章では、美しい肢体の清水愛恵とノーブルな濱本による、情感あふれるアダージョを見ることができた。第3楽章の福田建太(初日は吉留諒)によるアレグロ・ソロは、溌溂と美しい。動きの溜めが面白く、音楽を楽しんでいるように見えた。女性ダンサーの伸びやかなライン、男性ダンサーの切れの良さが、作品に生き生きとした躍動感を与えている。

バッハ、ハイドンメンデルスゾーンと、バロック、古典派、ロマン派の音楽を続けて聴く(見る)喜びがあった。バッハとメンデルスゾーンライプツィヒに縁が深く、後者は前者の死後初の『マタイ受難曲』復活上演を果たした関係にある。選曲の妙を感じさせる「ショルツ・セレクション」だった。