スタジオアーキタンツ「ARCHITANZ2014 3月公演」

標記公演評をアップする。

バレエ、コンテンポラリーダンス、能のオープン・クラスやワークショップを運営するスタジオアーキタンツは、国際的ネットワークを生かした実験的作品を、能楽堂や自スタジオで上演してきた。今回は新国立劇場に場所を移しての公演。2月のアレッシオ・シルヴェストリン、マクミラン森山開次、マルコ・ゲッケによるプログラムに続き、3月公演でも、ユーリ・ン、ウヴェ・ショルツ、ナチョ・ドゥアト、ゲッケという目配りの利いた作品が並んだ。中でも香港バレエ団所属ダンサーが踊るユーリ・ンとドゥアトの2作品は、東洋人がバレエを踊ることの精神的亀裂を考える上で示唆的だった。


幕開けのユーリ・ン作『Boy Story』は、98年バニョレ国際振付賞受賞作の再演。スタジオアーキタンツ設立のきっかけとなった記念碑的作品でもある。テーマは97年の香港返還。冒頭、赤い婚礼衣装に身を包んだ男が立っている。入れ違うように、パンツ一丁の男が登場。三点倒立をして横に倒れる。ハワイアン、加山雄三、ブラザーズ・フォーをバックに、高比良洋、江上悠の日本人を含む6人の男性ダンサーが、ギターの口パク、膝歩き、組体操、カンフーの動作を繰り広げる。細部まで動きがコントロールされているのは、呼吸法によるものだろう。


途中、赤い衣裳の男がそれを脱ぎ捨て、黒スーツ姿に変身、中国の歌でバーレッスンする。西洋の規範を東洋の体に折り合わせていく過程が、リ・ジャボーという優れたダンサーによって見事に身体化される。中国の歌を体に入れるときの、細胞レヴェルの喜びが直に伝わってきた。ユーリ・ン青春時代の身体を通した思考と試行錯誤が、ゆったりと流れる呼吸で纏められた、東洋の体への愛おしみにあふれる作品だった。


一方のドゥアト作『Castrati』(02年)は、ヴィヴァルディのカストラート声楽曲を使用。黒い衣裳を身につけた8人の男性ダンサーがカストラートの集団となって、肌色シャツの少年を組織に引きずり込む。音楽とエロティシズムが同居するドゥアトの特徴がよく表れている。男性集団の力強いユニゾン、少年の痙攣する繊細な動き。プリエ多用の重心の低い動きや力感を、ウェイ・ウェイを始めとする香港バレエ団ダンサーたちが見事に体現、少年の詩情あふれるソロと悲劇的な結末を、シェン・ジェの物語性を帯びた体が密やかに綴った。


ドゥアトの世界が肉体美と共に現出する中で、その体に刻まれる暴力性とユーリ・ン作品の親密な体の対照が浮き彫りになる。ダンサーたちの肉体の艶、輝きはン作品にあった。


ショルツ作品はシューマンの同名曲を使った『The Second Symphony』(90年)からアダージョの抜粋。酒井はなとアレクサンダー・ザイツェフ、西田佑子とヤロスラフ・サレンコによるWアダージョである。女性二人が手を繋いだまま、流れるようにリフトされる絵画のようなフォルムが美しい。プリパレーションなしにいきなりアラベスクなど、音楽的な喜びにあふれたショルツらしい振付。女性二人の緻密なバレエの肉体と、リフトし続ける男性ダンサーの胆力を至近距離で見ることができた。


プログラム最後はマルコ・ゲッケの『Mopey』。(04年)。C・P・E・バッハの曲を使ったソロ作品だが、ダンサーが途中、何度も袖に入り、無人舞台が読点のように出現するのが面白い。今回の酒井主演は女性初となる快挙。男性の動物的な力強さとは対照的に、繊細で可愛らしい動きを見せる。2月の『火の鳥のパ・ド・ドゥ』(ゲッケ)や、同じ動物系ソロの『瀕死の白鳥』に比べると、まだ酒井らしさを出しているとは言えないが、踊り込むうちにハードな重みが加わるかもしれない。今後も酒井のコンテンポラリー・ソロ開拓に期待する。(3月21日昼 新国立劇場小劇場) *『音楽舞踊新聞』No.2927(H26.6.1号)初出

ゲッケの『Mopey』は、すでに女性ダンサーによって踊られているらしい。YouTube では男性ダンサーしか見られず。異ヴァージョンあり。