2023年公演総括

2023年の舞踊公演を振り返り、印象に残った振付家・ダンサーを列挙する(含2022年12月)。すでにコロナ関連の劇場規制はなく、通常の上演形態に戻った。コロナ禍の名残りとしては、バレエ公演におけるスタンディングオベーションが挙げられる。声を出せないため、拍手とスタンディングでコロナ下のダンサーを応援した習慣が、そのまま残ったと思われる。個人的には今年初めてコロナ陽性を経験した。ある演劇の終演後、俳優の方(マスクなし)と会話した二日後に喉痛があり、猛烈な倦怠感に襲われた。この公演はすでに初日、コロナで降板した俳優の代役を演出家が務め、その後次々と感染拡大し、公演中止に至っている。明確な後遺症としては、嗅覚の異常があった。

もう一つは劇場コンテンツとクリエーションの問題。コンテンポラリーダンスの一見「よく出来た」作品が、なぜか琴線に触れないことがままあった。理由としては、振付家が本当に作りたいものではなく、期待されるものを作っているからだと思われる。本当に作りたいものを作るには、自分を掘らなければならない。その深さによって、観客の胸に届くかが決まる。たとえ断片的でも未完でも。劇場コンテンツとしては流通しづらく、振付家としての場を確保することにならないかもしれない。しかしクリエーションの本質は、自分でも思ってもみないパッセージが生まれること、自分を超える場が生まれることにある。期待に応えるという創作姿勢は、終着点が見えていることを意味する。クリエーションではなく、編集作業に堕してしまうのではないか。

2019年の大竹みか氏(享年85)に続いて、今年は松崎すみ子氏(1月4日没、享年87)と、矢野美登里氏(6月7日没、享年92)を失った。お三方は、幼い批評家(私)を温かく見守り、批評を続ける後押しを下さった方たちである。松崎氏はバレエ団ピッコロを主宰し、優れた創作バレエを作り続けた。練馬クリスマス公演では、子どもたちをあるがままで肯定する松崎ワールドを展開。氏の物語喚起力、音楽的振付、多彩なムーブメントが、子どもたちのみならず大人までをも魅了した。見る者を前向きにさせるのは、氏の真っ直ぐな人間性が舞台に反映されていたからである(『不思議の国のアリス』評はコチラ)。

一方矢野氏は、日本バレエ協会関東支部埼玉ブロック運営委員長を長年にわたって務められ、ブロック公演「バレエファンタジー」の継続に尽力された。優しく厳しいお人柄が多くの人を惹きつけ、古典と創作を軸とする公演には多彩な才能が集まった。若手の育成と創作の推進を常に目指されていたため、氏の周りにはいつもクリエイティブな息吹が漂っていた。埼玉県舞踊協会主催「埼玉全国舞踊コンクール」の実行委員長としては、若手育成への情熱のこもった閉会の挨拶が思い出される。バレエ関係では珍しく、長谷川六編集『ダンスワーク』の購読者でもあった。

 

【バレエ振付家

国内振付家では、谷桃子くるみ割り人形』(谷桃子バレエ団)、石田種生『挽歌』(東京シティ・バレエ団)、石井清子『四季』より「春」(東京シティ)、松崎すみ子『不思議の国のアリス』(バレエ団ピッコロ)、今村博明・川口ゆり子+イルギス・ガリムーリン・成澤淑榮『ドン・キホーテ』(バレエシャンブルウエスト)、篠原聖一『Les Saisons』(DANCE for Life)、中島伸欣『カルメン』よりPDD(東京シティ)、鈴木稔『ドラゴンクエスト』(スターダンサーズ・バレエ団)、マシモ・アクリ『ドン・キホーテ』(日本バレエ協会)、伊藤範子『シンデレラ』(日本バレエ協会神奈川ブロック)、斎藤友佳理『眠れる森の美女』(東京バレエ団)、木村和夫『fruits of wisdom』(東京)、熊川哲也『眠れる森の美女』(K-BALLET TOKYO)、石井竜一『シルヴィア』(井上バレエ団)、福田圭吾『Resonance』(新国立劇場バレエ団)、福田紘也『echo』(新国立)、久保綋一+宝満直也・岩田雅女『海賊』(NBAバレエ団)、貝川鐵夫『ロマンス』(国立劇場)、髙橋一輝『コロンバイン』(日本バレエ協会)。

海外振付家では、ド・ヴァロア(小林紀子バレエ・シアター)、バランシン(NBA、スタダン、東京シティ)、アシュトン(新国立)、ロビンズ(東京、スタダン)、リファール(草刈民代INFINITY)、プティ(東京、新国立、草刈、バレエアステラス)、ベジャール(東京)、マクミラン(小林)、ヌレエフ(草刈)、プロコフスキー(牧阿佐美バレヱ団)、ノイマイヤー(東京)、キリアン(東京)、フォーサイス(東京シティ)、ドゥアト(新国立)、ショルツ(東京シティ)、タケット(新国立)、ドウソン(新国立)、スカーレット(アステラス)。

【モダン&コンテンポラリーダンス振付家

モダンでは、能藤玲子『限られることの』(現代舞踊協会)、芙二三枝子『土面』+折田克子『夏畑』+アキコカンダ『マーサへ』他(新国立+現代舞踊協会)、川口節子『マダム・バタフライ』(日本バレエ協会)、田中いづみ『peace by dance』(S.I.T ダンススタジオ)。フラメンコでは佐藤浩希『恋の焔炎』(アルテイソレラ)。舞踏系では、笠井叡『「フーガの技法」を踊る』(横浜赤レンガ倉庫1号館)、山崎広太『机の一尺下から陰がしのび寄ること』(ボディアーツラボラトリ―)、伊藤キム『誰もいない部屋』(フィジカルシアターカンパニーGERO)、岩渕貞太『エイリアンのミラーボール主義宣言』(岩渕貞太 身体地図)、関かおり『み とうとう またたきま いれもの』(団体せきかおり)、中村蓉『fマクベス』(ヨウ+)。バレエベースでは、中村恩恵エチュード』(草刈民代INFINITY)、金森穣『Der Wanderer』(新潟市芸術文化振興財団)+『畦道にて』(日本バレエ協会)+『かぐや姫』(東京バレエ団)、黒田育世『Ysee』(黒田育世事務所)、松崎えり『kukka』(東京シティ・バレエ団)。純コンテンポラリーでは、勅使川原三郎ランボー詩集』(カラス)、康本雅子『全自動煩悩ずいずい図』(ペーハー、康本雅子)、藤田善宏『ライトな兄弟』(MITATEYA)、下島礼紗『ビコーズカズコーズ』(ケダゴロ)、黒須育海『ごんぞうむし』(彩の国さいたま芸術劇場)、川村美紀子『じごくのあばれもの』(同)、大森瑤子『おざなりちゃん』(吉祥寺シアター)。海外振付家ではクリスタル・パイト&ジョナサン・ヤング(DaBY・神奈川県民ホール)。

【女性ダンサー】(括弧内は振付家名)

出演順に、日髙世菜のマリー姫、秋山瑛のマーシャ、野久保奈央のオーロラ姫、米沢唯のこんぺい糖の精、小野絢子の同じく、小暮香帆(山崎広太)、西村未奈(西村)、能藤玲子(能藤)、直塚美穂(ドウソン)、小野(バランシン)、アリーナ・コジョカル(ノイマイヤー)、三東瑠璃(柳本雅寛+三東)、ケイタケイ(ケイ)、石橋静河岡田利規)、上野水香ベジャール)、小野のプティ版スワニルダ、米沢の同じく、井関佐和子(金森穣)、菅井円加(ノイマイヤー)、清田カレン(フォーサイス)、北村思綺(関かおり)、秋山(アルバレス)、伝田陽美(同)、五月女遥(福田圭吾)、川村美紀子(川村)、秋山(ロビンズ)、米沢のマクベス夫人(タケット)、小野の同じく、寺田亜沙子(アシュトン)、池田理沙子(同)、塩谷綾菜(バランシン)、渡辺恭子(ロビンズ)、秋山のジゼル、野久保のメドーラ、山田佳歩のギュルナーレ、高瀬譜希子(芙二三枝子)、中村恩恵(アキコカンダ)、米澤真弓のコンスタンス、飯塚絵莉(バランシン)、志賀育恵(中島伸欣)、大久保沙耶(ショルツ)、佐合萌香(同)、島添亮子(マクミラン)、秋山(ブルノンヴィル)、佐々晴香(リファール)、ドロテ・ジルベール(プレルジョカージュ)、リュドミラ・パリエロ(プティ)、ジェシカ・ジュアンのオーロラ姫、吉田合々香(スカーレット)、野久保のドラキュラ・ミーナ、勅使河原綾乃のドラキュラ・ルーシー、塩谷のドラクエ王女、杉山桃子のドラクエ戦士、康本雅子(康本)、鈴木春香(康本)、小野(篠原聖一)、中村蓉(中村)、加藤みや子(加藤)、川口まりのキトリ、米沢唯のキトリ、小野の同じく、秋山のかぐや姫(金森)、沖香菜子の影姫(金森)、伝田の秋見(金森)、日髙のオーロラ姫、妻木律子(山田奈々子)、佐東利穂子(勅使川原三郎)、沖のオーロラ姫、秋山の同じく、金子仁美の同じく、伝田のカラボス、吉田朱里のジゼル(2幕)。

【男性ダンサー】(括弧内は振付家名)

出演順に、刑部星矢のデジレ王子、福岡雄大のくるみ割り王子、速水渉悟の同じく、中家正博のドロッセルマイヤー、山崎広太(山崎)、森本晃介(ドウソン)、柳本雅寛(柳本)、マルセロ・ゴメス(プティ)、大塚卓(キリアン)、福岡のプティ版フランツ、山本隆之の同コッペリウス、山田勇気(金森穣)、林田翔平(鈴木稔)、アレクサンドル・リアブコ(ノイマイヤー)、新井悠汰(フォーキン)、福田建太(ブベニチェク)、内海正考(関かおり)、樋口祐輝(木村和夫)、大塚(同)、山下湧吾(アルバレス)、大塚の帝(金森)、福岡のマクベス(タケット)、奥村康祐の同じく、中家のマクダフ(タケット)、速水(アシュトン)、石山蓮(同)、秋山康臣のアルブレヒト、柄本弾の同じく、新井のコンラッド、本岡直也のパシャ・ザイード、大森康正のビルバンド、スチュアート・キャシディのシャープレス、福岡のジークフリード、速水の同じく、中家のロットバルト、木下嘉人のベンノ、島地保武(折田克子)、清瀧千晴のダルタニアン、吉留諒(バランシン)、濱本泰然(中島伸欣)、キム・セジョン(ショルツ)、渡邊峻郁のジークフリード(こども劇場版)、マルク・モロー(ベジャール)、マチアス・エイマン(ポリャコフ)、吉山シャール ルイ(プティ)、木本全優(バランシン、プティ)、江部直哉(ブルノンヴィル)、刑部のドラキュラ、池田武志のドラクエ黒の勇者、笠井叡(笠井)、八幡顕光(宝満直也)、池上たっくん(中村蓉)、柳下則夫(加藤みや子)、藤島光太のバジル、伊藤龍平のグランゴワール、福岡のバジル、速水の同じく、中家の同じく、中島瑞生のエスパーダ、柄本の道児(金森)、木村和夫の翁(金森)、山本雅也のデジレ、三浦一壮(ダルクローズ+α)、ハビエル・アラ・サウコ(勅使川原三郎)、大川彪のソロル(2幕)、秋元のデジレ、宮川新大の同じく、仲村啓のアルブレヒト(2幕)、石山蓮(ドゥアト)、森本(ドゥアト)。