パリ・オペラ座バレエ団『ドン・キホーテ』2014

標記公演評をアップする。

パリ・オペラ座バレエ団が昨年に引き続き来日した。演目はヌレエフ版『ドン・キホーテ』(81年)と、ノイマイヤー版『椿姫』(78、06年)。どちらもオペラ座の現在を映す代表的なレパートリーである。そのうちの前者を見た。


ヌレエフの振付は、ブルノンヴィル・スタイルから遡ったフランス派へのオマージュに彩られている。バットリー、ロン・ド・ジャンブの多用、アン・ドゥ・ダン回転はもちろん、左右両脚によるトゥール・アン・レールやピルエットが主役には課される。ブルノンヴィル・スタイルにおいては全体の調和と、高難度の技を容易く見せる玄人らしさが要求されるが、ヌレエフ振付の場合は、全力で遂行しないと追い付けない程の過剰なパが詰め込まれているため、これ見よがしに踊る余裕さえ与えられない。


フランス派の優雅さをなぜ追求しないのだろうか。それとも過剰に歪む装飾的なバロックの美を求めているのだろうか。ランチベリーの編曲も同程度の装飾性を帯びて、古典バレエの様式から外れている。その編曲を以ってしても、テンポを揺らさないと踊れない過密な振付である。


キトリはスジェのマチルド・フルステー、バジリオはエトワールのマチアス・エイマンという似合いの二人。フルステーの繊細な肉体から繰り出される強靱なテクニックは驚異。両脚ポアントからのアラベスクを当然のように実行する。エイマンもフランス派の脚で次々と難題をクリアした。オペラ座ダンサーにしか踊れない振付への義務感さえ感じさせる。ソリストからアンサンブルまで楷書のような足技。床をつかむ、払う、がくっきりと見える。男女の若手アンサンブルにとって、ヌレエフ振付はドリルのようなものかも知れない。


エスパーダのヴァンサン・シャイエの格好良さ、踊り子のサブリナ・マレムの小粋な踊りに加え、ドン・キホーテのギョーム・シャルロー、サンチョ・パンサのシモン・ヴァラストロ、ガマーシュのシリル・ミティリアン、ロレンツォのアレクシス・サラミットらマイム役が、自然な演技で舞台を盛り上げた。指揮はケヴィン・ローズ、演奏は東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団。(3月14日 東京文化会館) *『音楽舞踊新聞』No.2927(H26.6.1号)初出

もう一つの演目、ノイマイヤー版『椿姫』も見たが、ハンブルク・バレエの時と同じ、作品そのものがいいと思えなかった。観客との意思疎通を望んでいないような、閉じこもった感じ。コレクター気質だろうか。ノイマイヤー本人の感情が感じられない。趣味は伝わるけど。ダンサーが喜んで踊るのが、よく分からない。