バレエシャンブルウエスト「トリプル・ビル」2014

標記公演評をアップする。

バレエシャンブルウエスト第72回定期公演は、シンフォニック・バレエ、コンテンポラリー・ダンス、物語バレエを組み合わせたトリプル・ビル。異なる3ジャンルを、団員達がいかに踊り分けるかに注目が集まる。


幕開けの『バレエインペリアル』は、ロッシーニの『セミラーミデ』序曲に振り付けられたクラシカルな作品(振付・今村博明、川口ゆり子)。橋本尚美と正木亮を中心に、4組の男女と女性アンサンブルが晴れやかな舞を繰り広げる。ロッシーニ特有の急きたてるようなクレシェンドや、驚愕のフォルテから、今村好みのアレグロ等が見られるかと思ったが、クラシックの様式性を重視する、ゆったりとした振付だった。この場合、プリマの位置にある橋本は、かつてキトリで見せた抑えた統率力で、さらに場を引き締める必要があっただろう。若手にバレエ団のスタイル徹底を図るための、規範的な作品と言える。


舩木城振付の『カウンターハートビーツ』は世界初演。舩木は4月にも他団で新作を発表したばかりである。今回はミニマルな曲を使った、よりスタイリッシュな作品。斜線ライトを多用し、赤ライトを瞬時入れる等、工夫を凝らした照明空間である。ダンサーは女性5人、男性4人。クールなフォーメイションが音楽に沿って展開され、途中、松村里沙とジョン・ヘンリー・リードの濃密なパ・ド・ドゥが見所を作る。終盤は、ダンサー達が「死」、「孤独」、「病」、「怒り」等と発語しながら歩き回り、過呼吸の振りも。リードが松村にキスをした途端、上から黒幕が塊で落ちる。思う存分振り付けたエネルギッシュな作品だが、前作に続き、病的な場面がやや唐突に思われる。果たして舩木本来の個性や資質と合致するものだろうか。


最後はバレエ団の重要なレパートリー、『フェアリーテイルズ』。アイルランドの老画家が息子夫婦と孫達に、若き日の想い出―森で出会った沢の精に、生きる力を与えられた―を語る、3景から成る妖精物語である。民俗音楽、ドビュッシープロコフィエフのエコーを含む石島正博の雄弁なバレエ音楽、古典の形式を取り入れた今村・川口の音楽的な振付、スケールの大きいオークネフの美術が、格調高い物語バレエを形成する。


画家の母に似た沢の精には川口。登場するだけで空気がみずみずしくなる。アクロバティックなリフトも回避しないので、途中ヒヤリとする場面もあったが、その透明な佇まい、無垢なラインは、川口にしか出せない代替不能な個性である。ベテランとなった二人の教え子、画家の逸見智彦と、心の陰の吉本泰久とのトロワは、逸見の大きさ、吉本の献身が川口を支え、心にしみる場面となった。逸見のノーブルなマイム、吉本の鋭い踊りも素晴らしい。妖精たちも実力派揃い。土方一生の音楽性、吉本真由美の愛らしさが印象深い。画家の孫達、川口まりと松村凌の行儀のよい踊りはバレエ団のスタイルの象徴。全体の仕上がりも良く、バレエ団を支えるレパートリーであることが確認された。


末廣誠指揮、東京ニューシティ管弦楽団演奏のロッシーニと石島は、メリハリがあり情感豊か。音楽を聴く喜びがあった。(6月22日 オリンパスホール八王子) *『音楽舞踊新聞』No.2932(H26.8.1/11号)初出