牧阿佐美バレヱ団『ドン・キホーテ』2014

標記公演評をアップする。

牧阿佐美バレヱ団がプリセツキー版『ドン・キホーテ』を上演した。バレエ団初演は89年、代々のプリマが踊り継ぐ、練り上げられたレパートリーである。古風な趣を湛えているのが、幕ごとのレヴェランス。幕前でマタドール達が並んで見得を切るなか、登場人物たちが次々とレヴェランスをする。ジプシー達も同様、森の妖精たちは幕を上げてのご挨拶だった。客席との交感が増大し、劇場の持つ祝祭性をさらに高める効果がある。一幕のジプシー子役(もう少し芝居を入れて欲しいが)の活躍も19世紀の名残。子役の参加で舞台に「世界」が現出した。


主役はWキャスト。初日のキトリは日高有梨、バジルは菊地研、二日目は青山季可と清瀧千晴、その二日目を見た。爽やかな風が吹き渡るような『ドン・キホーテ』。青山のプリマとしての責任感、周囲を祝福する笑顔、困難に挑む勇気が、一挙手一投足、場面ごとに輝きを与えている。役解釈はさりげなく実行。難技を春風のようにすっきりと、音楽とたゆたうように収める。ふとした仕草にも気品が漂い、古典ダンサーとして円熟期を迎えているのが理解された。


対する清瀧はもはや若手とは言えない年齢。明るい性格と伸びやかなグラン・ジュテで舞台を活気づけるが、踊りに磨きをかける時期に入っている。自らの並外れた才能を開花させる義務が、清瀧にはある。


街の踊り子には、音楽的で美貌とプライドのある伊藤友季子、迎えるエスパーダには適役の中家正博。今回は初役時よりも野性味が減り、持ち味の躍動感が抑えられている。ワガノワ仕込みの大きな踊りを維持して欲しい。


森の女王久保茉莉恵の周囲を自然な息吹で包み込む大きさ、酒場の踊り子田中祐子の臈長けた美しさ、ジプシーの女吉岡まな美のパトスに満ちた踊り、キトリの友人米澤真弓の手堅さ、織山万梨子の艶っぽさ、町の女たち茂田絵美子の正確なポジションの美しい踊りが印象深い。


ドン・キホーテは保坂アントン慶、ガマーシュは逸見智彦、キトリの父は森田健太郎。森田と逸見はドン・キホーテ、保坂はガマーシュとキトリ父も配役可の、贅沢な立ち役組である。森田の熱血父が舞台を席捲した。サンチョ・パンサは高々と投げ上げられる上原大也が担当。またジプシーの首領とファンダンゴのラグワスレン・オトゴンニャムが、マイムの鮮やかさとラインの美しさで一際目を惹いた。


男女アンサンブルは音楽性と抑制的なスタイルで統一されている。演奏は、アレクセイ・バクラン指揮、東京ニューシティ管弦楽団。(6月15日 ゆうぽうとホール) *『音楽舞踊新聞』No.2932(H26.8.1/11号)初出