Kバレエカンパニー『カルメン』2014

標記公演評をアップする。

Kバレエカンパニーが創立15周年記念公演第3弾として、ビゼー音楽の『カルメン』全二幕を新制作した。演出・振付は芸術監督の熊川哲也、舞台美術はオペラで活躍するダニエル・オストリング、衣裳は同じくマーラ・ブルーメンフェルド、照明は足立恒、編曲はK‐BALLET音楽のスタッフによる。オストリング美術の二棟の建物はいかにもオペラ風。抽象的だが乾いた土と木の質感で、メリメ原作の凄惨な愛の物語の器となった。


登場人物やストーリー展開はオペラに準拠する。唯一異なる点は、ホセがカルメンを短刀ではなく、ピストルで殺すこと。その即物的でドライな感触は、熊川のストイシズム、またはシャイネスに由来すると思われる。終幕、カルメンの亡骸を抱いて歩み去るホセの姿は、マクミランの『マノン』を想起させるが、そのままドラマティックに終わるのではなく、エスカミーリョの元気なメロディで幕を閉じるのも熊川らしい反転だった。ロマンティックな「花の歌」の代わりに、リリカルな「間奏曲」をホセの愛のテーマにした点にも、同じ嗜好を感じさせる。


振付は音楽的で高難度。縄で結ばれたホセとカルメンのパ・ド・ドゥや個々の性格を反映したソロに加え、りりしく揃った衛兵群舞、コミカルなジプシー群舞など、踊りの見せ場が多い。カルメンが踊る机の上に、次々と男達が跳び乗る振付は、熊川の面目躍如である。


4人のホセと5人のカルメンのうち、ベテラン神戸里奈と主役デビューの福田昴平を見た。神戸は音楽性豊かで、リリカルなタイプの踊り手だが、今回は全編を通して感情を出し切る渾身の演技を見せた。動きの質の高さ、絶妙の音取りに風格すら漂わせる。一方の福田は、若手とは思えないダークな男臭さを身に纏う。初主役で実力を十全に発揮できるのも、バレエ団の場数の多さ、厳しい指導ゆえだろう。


カエラ荒蒔礼子の涼やかさ、エスカミーリョ杉野慧の華やかさ、モラレス石橋奨也のグロテスクな役作り、そして何よりスニガを演じたスチュアート・キャシディの品格ある演技が素晴らしかった。立ち姿のみで役を表現できる。主役、脇役、アンサンブルまで、技術の高さと音楽性で統一された舞台。井田勝大指揮、シアターオーケストラトーキョーが若々しい音作りで併走している。(10月11日夜 オーチャードホール

『音楽舞踊新聞』用に書いたが、掲載される気配がないので、遅ればせながらこちらにアップした。