日本バレエ協会『コッペリア』2015

標記公演評をアップする。

日本バレエ協会が都民芸術フェスティバル参加公演として、ヴィハレフ復元のプティパ版『コッペリア』を上演した。ドリーブの幸福感あふれる音楽、華やかな民族舞踊、ホフマン原作の闇に無邪気な恋物語を絡めた喜劇作品である。


サン=レオン初演版は最後のロマンティック・バレエと言われるが、プティパ版は、サン=レオン振付の香りを残した古典バレエ。三幕「時のワルツ」は幾何学的なフォーメイションを描き、ディヴェルティスマンは高難度の古典ソロで構成される。特に曙、祈り、フォリーのソロは主役級の振付、ブルノンヴィル風のフランツ・ソロ(N・セルゲイエフ振付)も難度が高い。


主役のスワニルダには、一幕のフランス風脚技、二幕の人形振りと演技、三幕の古典技法と、高い技倆が要求される。下村由理恵、法村珠里、志賀育恵(出演順)が果敢に挑戦、フランツにはそれぞれ、芳賀望、浅田良和、橋本直樹の元Kバレエ・トリオが出演した(芳賀は元新国立でもある)。


初日の下村は全幕を通じて、スワニルダのあるべき姿を見せることに成功した。自在な脚技、自然な演技、崇高なアダージョ。改めてオールラウンドのバレリーナであることを思い知らされた。相棒の芳賀は、フランツ気質。「楽しくやろうよ」が信条である。破格の明るさ、華やかなスター性、豪快な踊りが、舞台に熱風を吹き込んだ。


二日目マチネの法村は、モスクワ仕込みの伸びやかなラインと大きな踊り、華やかな容姿、地を生かした演技で、楽々とドラマを立ち上げた。友人達とのアンサンブルも抜群。アダージョの見せ方にはさらなる工夫が望まれるが、最もロシア・バレエの味わいが濃厚だった。対する浅田は、法村の娘らしさに見合ったロマンティックな青年。やや憂いを秘めた役作り、切れ味鋭いソロが印象深い。


ソワレの志賀は、東京シティ・バレエ団で同役を踊り込んでいる。小柄だがエネルギーにあふれ、繊細な腕使いと脚技、コミカルな演技で、生き生きとしたスワニルダを造型した。対する橋本は、パートナーシップに長けたダンスール・ノーブル。志賀との演技のやりとり、ソロでの清潔な脚技が素晴らしかった。


コッペリウスもトリプルキャスト。マシモ・アクリの伝統的マイムが繰り出す滑稽な味、桝竹眞也の人形に命を吹き込もうとする狂おしい野望、アレクサンドル・ミシューチンのペーソスあふれる老人と、それぞれ技巧派、ロマンティック、正攻法の舞台に沿ったアプローチだった。


ソリストはバレエ協会ならではの才能を集めたが、中でもフォリー・星野姫のエネルギーに満ちた踊り、祈り・榎本祥子の場を支配する踊りが強烈な印象を残した。マズルカチャルダッシュ・アンサンブルはベテランを交えて厚みがある。一方、時のコール・ド・バレエは若手主体。プティパのシンプルな振付を神妙に踊っていた。


指揮はアレクセイ・バクラン、演奏は東京ニューシティ管弦楽団。(3月7日、8日昼夜 東京文化会館) *『音楽舞踊新聞』No.2946(H27.4.1号)初出