牧阿佐美バレヱ団『眠れる森の美女』2015

標記公演評をアップする。

牧阿佐美バレヱ団が、都民芸術フェスティバル参加作品として、ウエストモーランド版『眠れる森の美女』を上演した。82年バレエ団初演の重要なレパートリーである。


同版は英国系の流れを汲み、マイムを保存。昨年、新国立劇場バレエ団が初演したイーグリング版とは、言わば兄弟関係にある。ウエストモーランド版では、妖精の招待リストを何人もが確認するのに対し、イーグリング版ではリストの確認に邪魔が入る。「目覚めのパ・ド・ドゥ」でも、ウ版の古典的な振付に対し、イ版では情熱的なモダンバレエの振付。改訂者の資質もあろうが、時代の流れを感じさせる細部の違いが、興味深い。


オーロラ姫には、バレエ団を代表する伊藤友季子と青山季可、フロリモンド王子には、マリインスキー・バレエのデニス・マトヴィエンコと、前回カラボスの菊地研が配された。伊藤は何よりも音楽性を重視。演技はあっさりと、踊りはこれ見よがしでなく、するすると水のように推移する。一幕の少女らしさ、二幕の幻想的はかなさ、三幕の気品と演じ分けてはいるが、核は音楽と一体化した隙のない身体である。古典の形式美を追求するアプローチだった。


一方、青山は物語性を重視。古典バレエの演劇的側面を読み込み、一挙手一投足に心を込める。常に相手との、さらには観客とのコミュニケーションを目指すので、観客は青山と共に旅をし、その身体から微笑を受けたような心持ちになる。両者共ベテランの域、考え抜いた舞台だった。


王子のマトヴィエンコは若々しい激情を個性としてきたが、さすがに落ち着いた演技。マイムの品格を初めて見た気がする。三幕コーダでは勢いあるマネージュで、かつての片鱗を覗わせた。一方、菊地は二幕ソロに力みがあったが、徐々に王子の雰囲気を醸し出し、さらには不敵な笑みを浮かべるに至った。三幕マネージュとピルエットは華やか。少しカラボス色が滲む王子だった。


リラの精はベテランの吉岡まな美と、久保茉莉恵。吉岡は全てを見通す統率力と、長いラインが繰り出すシャープな踊り、久保は全てを見守る包容力と、調和の取れた香り高い踊りが特徴。ソロはそれぞれロプホフ版とプティパ版を踊った。


カラボスの保坂アントン慶、フロレスタン24世の逸見智彦、王妃の吉岡と塩澤奈々が、個性を生かした演技を見せた他、依田俊之が愛情深いカタラブットを演じて出色だった。


清瀧千晴のブルーバードははまり役。また清瀧、日高有梨、坂爪智来、中川郁の金・銀・宝石アンサンブル、中家正博・栗原ゆうのブルーバード組、塚田渉の猫、元吉優哉の狼など、ディヴェルティスマンは見応えがあった。リラのおつきと花輪の踊りはジュニアだったが、バレエ団の総合力を示す上演だったと言える。


大ベテランのデヴィッド・ガーフォースが、東京ニューシティ管弦楽団から細やかなニュアンスの音楽を引き出している。(2月28日、3月1日 ゆうぽうとホール) *『音楽舞踊新聞』No.2948(H27.5.1号)初出