バレエシャンブルウエスト「トリプル・ビル」2016

標記公演を見た(6月19日 オリンパスホール八王子)。八王子を拠点とするバレエシャンブルウエストの地域密着型公演。今回は、前回の舩木城作品に続き、田中祐子の新作を地元の人々に紹介する。創作に力を入れる同団らしい企画である。メインは日舞とバレエのコラボレーション『時雨西行』、さらに古典バレエの幕抜粋『ライモンダ第3幕』が上演された。美しい衣装のオープニングも加わったが、田中作品の深刻なテーマとバランスを取るためだったのだろう。
田中祐子振付の『あやとり』は、八王子出身の作家、篠田節子の『長女たち』を基にした作品。認知症の母と、娘の姉妹、そのフィアンセたちに、コロス、子供時代の姉妹と友達を踊る子役が登場する。母は仮面を付けているが、途中コロスによって外され、症状が出る前の生き生きとしたソロを踊る。子供たちを見守る優しい姿も。現在の母は、恐怖にさいなまれ、あてどなく歩き回る。母に寄り添う長女とフィアンセ。母が眠りにつくと、長女は呆然と座り、幕となる。
原作は未読のため、構成などの工夫は分からないが、観客に分かりやすい自然な展開だった。最後はモダンダンス風に詠嘆で終わり、年輩層が受け入れやすい日本的な終幕である。振付語彙はコンテンポラリーの入ったモダン系。少し説明的に思える部分もあったが、長女とフィアンセの瑞々しいデュオ、母の認知症のソロ、母と長女とフィアンセのトロワは、見応えがあった。母・吉本真由美の存在の根底が揺るがされた踊り、フィアンセ・土方一生のたくましい青年ぶりが印象的。冒頭、舞台左右に張られた何本ものあやとりの糸を切って落とすなど、美術・照明は広い舞台によく対抗している。
18年前に清里フィールドバレエで初演された『時雨西行』は、バレエ部分を今村博明・川口ゆり子、邦舞を藤間蘭黄が振り付けている。宗次郎(『大黄河』より)の悠然と流れる無国籍民族音楽が、洋舞と邦舞を違和感なくまとめる。作品の核は、江口の君を踊った川口。その美しい日本的所作、遊女から普賢菩薩への変化を可能にする聖性は、他のダンサーの代替を許さない。西行中村梅玉との立会い、互いの話(ソロ)を聴く佇まいは拮抗し、パ・ド・ドゥに等しいエネルギーの交換があった。実際に江口の君とパ・ド・ドゥを踊る「心」には、逸見智彦。初代の今村からノーブルな踊りを引き継いでいる。
最終演目『ライモンダ第3幕』は、改訂振付を今村・川口が担当(主役のパ・ド・ドゥは、牧阿佐美バレヱ団のウエストモーランド版より)。優美なマズルカが印象深い。ライモンダには松村里沙、ジャン・ド・ブリエンヌは元Kバレエカンパニーの橋本直樹。松村は、輝かしいライモンダ・ダンサーだった川口の指導を受けて、行き届いた踊りを見せる。古典主役としてはさらに、パ・ド・ドゥを二人で踊る意識、空中でのフォルム、劇場空間を掌握する大きさが望まれる。一方の橋本は、本来のノーブルで溌剌とした踊りよりも、少し控えめなスタイルを踏襲しているようだ。パートナーとのコミュニケーションはいつも通りよく努めていた。

中央線での帰途、隣席の中高年女性二人が、出口で配られた花束を手に『たまにはバレエもいいかなと思って。楽しかったね』と語らっていた。