テロ・サーリネン・カンパニー『MORPHED』2015

標記公演を見た(6月21日 彩の国さいたま芸術劇場)。昨年、埼玉舞踊協会の招きで、日本人ダンサーに新作を振り付けたテロ・サーリネンが、自らのカンパニーを率いて来日した。作品は同じく2014年初演。特権的なダンサーのソロに緻密な群舞、フォーメイションを付けるという点では共通するが、埼玉舞踊協会の場合は、東洋的身体(舞踏、推手)や、アフリカン・ダンスのような足踏みなど、土俗的な要素が多く含まれていた。
今回は、まずエサ=ペッカ・サロネンの音楽があった。『無伴奏ホルンのための演奏会用練習曲』(00年)、『フォーリン・ボディーズ』(01年)、『バイオリン協奏曲』(09年)。直球正攻法、清潔で凛々しい。初演時には作曲家の指揮で、生演奏されたとのこと。恐らくは全く異なるダンス受容体験になっただろう。今回はCD録音という完璧な演奏、アンプを通しての音量のため、音楽の存在感がダンスを圧倒する場面が多かった。
ダンサーは男性8人。異なる出自とのことで、振付語彙が特別のジャンルを思わせることはない。冒頭は歩行。4重の正方形を互い違いに2人づつ歩く。シモテに中心を移したり、斜めの変形を作ったり。ポストパフォーマンストークで、曼荼羅を描いていたと分かった。僧侶やビジネスマンの歩行と言っていたが、実際には兵隊か服役囚のように見えた。さらに時計の針のような隊形を作ったり、三方に垂らされた太いロープと絡んだり。時々細かなフォーメイションを作ってハッとさせたり(通常は作り込まないようなところで)。
ロープで群舞、というと先例があるが、サーリネンのロープは太く実直。船や海を思わせる。同じく振付も真っ直ぐ。クールであることに価値を置いていない。農作業が、最後には神事に至るような感じ。
ダンサーたちはマッチョな外見だが、静かな印象がある。汗の匂いがしない。男性性からの解放が着地点だから? それともサーリネンの特徴? それともフィンランドの土地柄?
最初に白のベストになったユッシ・ノウシアイネンの、深い精神性を思わせる武術家のようなソロ、鳶色の長いソバージュ頭でブリッジをした、ペッカ・ロウヒオの実存的ソロが素晴らしかった。二人のクリエイティヴな踊りが、唯一音楽と拮抗している。
サーリネンの才能を感じさせた、と言うよりも、サーリネンの思いを受け取った公演。