バレエシャンブルウエスト「トリプル・ビル」2015

標記公演評をアップする。

バレエシャンブルウエストが第74回定期公演を行なった。昨年に続き、船木城の創作を含むトリプル・ビルである。


幕開けの船木振付『Thousand Knives』(11年)は、12年にNBAバレエ団でも上演された作品。坂本龍一のアジア的な音楽に、今回はスタイリッシュな照明(成瀬一裕・あかり組)と衣裳(萩野緑)が加わり、よりネオクラシカルな色彩を深めている。主役を踊った山本帆介(サンフランシスコ・バレエ団)の成熟した男の魅力、力強く美しいラインが作品を牽引。土方一生の若々しく切れ味鋭いパ、松村里沙のハードな味わい、楠田智沙の厚みも際立った。バレエ団がレパートリー化しうる完成された作品である。


第二部は『海賊』より「花園」(振付・今村博明、川口ゆり子)。オダリスクの踊りを加え、バレエ団女性陣の実力を披露する構成である。メドーラの橋本尚美は気品に満ちたエポールマンで、古典のあるべき姿を伝える。回転技には少し苦しんだが、一つ一つのパに涼やかなきらめきがあった。ギュリナーラ・深沢祥子の美しさも健在。オダリスク・藤吉千草の風格、斉藤菜々美の切れ、柴田実樹の伸びやかなラインと行き届いた踊り、さらにスタイルの統一された誠実なアンサンブルが、バレエ団の育成力を物語っていた。


最後は船木の新作『Tale』(40分)。昨年の『カウンターハートビーツ』は作家性を前面に出し、バレエ団を使ったという印象だったが、今回はダンサーのために振り付けている。さらに大ベテランの今村と川口を中心に据えたことで、作品に幅と奥行きがもたらされた。翻って、弟子に新作を振り付けられた二人は、師匠冥利に尽きるだろう。


7場のうち最も心に刻まれたのは、やはり川口の踊りだった。今村と少し組んだ後、正木亮とエック風のデュオを踊る(音楽・ペルト)。逆さになって脚を開閉しながらリフトされる姿が新鮮だった。エックのデュオが孤独と絶望に彩られるのに対し、船木のデュオには、郷愁やものの哀れといった自然と密着した感情が伴う。川口の少女を思わせる透明感と、風にそよぐような受け身の身体性が、或いはそう思わせたのかも知れない。


一方今村は、教え子の吉本泰久、土方とのユニゾンで、抜きん出て美しい踊りを披露した。終幕には、ダンサー一人一人に抱きとめられながら、最後には川口と出会う、オルフェオのような劇的歩行を見せている。


高山優と山本による叙情的な白鳥風デュオ、松村とジョン・ヘンリー・リードによるハードな黒鳥風デュオ、楠田と男性3人による激しいカルテットと、表情の異なる力強い振付が並ぶ。バレエ団にコンテンポラリー・バレエ作品を提供できる振付家が誕生した。(6月20日 オリンパスホール八王子) *『音楽舞踊新聞』N0.2952(H27.7.15号)