新国立劇場バレエ団「Dance to the Future 〜Third Steps 〜」2015

標記公演評をアップする。

新国立劇場バレエ団が3回目の団員創作公演を行なった。「Dance to the Future 〜Third Steps 〜」である。ビントレー前芸術監督の企画を、平山素子をアドヴァイザーに迎えて継続させた。前回までは作品選択、指導、プログラム構成にビントレーの息吹が行き渡り、公演全体がビントレーの作品であると同時に、団員のサンクチュアリともなっていたが、今回は平山道場の趣。自らの処女作をプログラムに加え、創作の先輩としての自分と競わせる厳しさが漂った。


個性を確立し、ダンサーを十分に生かして踊らせたのは、貝川鐵夫と福田圭吾だった。貝川の『Chacona』(バッハ曲)は堀口純を紅一点に、輪島拓也、奥村康祐、田中俊太朗が踊る。ドゥアトへの傾倒を思わせる濃密なエロティシズム(男性デュオあり)と、貝川独自の鮮烈な音楽性が舞台に横溢する。何よりも動きに肉体を通した喜びがあった。


福田の『Phases』はグノーの「アヴェ・マリア」とライヒを組み合わせ、叙情性とミニマルな動きを交互に見せる作品。美しいマリアの寺田亜沙子を菅野英男が美しくサポートする。ライヒでは福田振付の代弁者、五月女遥を中心に丸尾孝子、石山沙央理、成田遥が切れの良い踊りで、福田の鋭い音楽性を体現した。


多人数作品は他に、公演の最初と最後を飾った宝満直也『はなわらう』(高木正勝曲)と、小口邦明『Dancer Concerto』(ブラームス曲)。前者は、アポロンのような福岡雄大と翳りのない米沢唯の可愛らしいデュオを中心に、全体が明るく微笑んでいるような作品。後者は細田千晶をトップに、小口世代がソロをバトンタッチしていく親密なシンフォニック・バレエだった。


デュオ作品は広瀬碧『水面の月』(久石譲曲)と、高橋一輝『The Lost Two in Desert』(G・プリヴァ曲)。ドッペルゲンガーのような川口藍と広瀬のたゆたう女性デュオに、盆子原美奈の巧さを前面に出した粋な男女デュオである。


ソロはトレウバエフ『Andante behind closed curtain』(D・クレアリー曲)と、平山『Revelation』(J・ウィリアムズ曲)。前者は、幕が降りた後のプリマの苦悩を、ペーソスを滲ませたグロテスクな踊りで表現。湯川麻美子の虚構度の高い踊りが印象深い。


かつてザハロワが、その研ぎ澄まされたラインで機能美を主張した『Revelation』(招待作品)には、小野絢子と本島美和が挑戦した。両者ともザハロワとは異なるアプローチ。初日の小野は物語を構築し、振付に感情を乗せる方法。叙情的だが、作品に向けて自分を解き放つには至らなかった。一方本島の踊りには、研修所時代の自作ソロから現在までを走馬燈のように蘇らせる深さがあった。振付・構成の解釈は的確。動きの強度、鮮烈なフォルムに、ヴッパタール・ダンサーのような剥き出しの実存を感じさせた。(1月16、17日、新国立劇場小劇場) *『音楽舞踊新聞』No.2943(H27.2.15号)初出