日本バレエ協会「全国合同バレエの夕べ」2015

標記公演評をアップする。

文化庁及び公益社団法人日本バレエ協会主催「全国合同バレエの夕べ」が、二日にわたり開催された。「平成27年文化庁次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」の一環である(協力・公益財団法人新国立劇場運営財団)。今回は岡本佳津子会長が就任して初めての公演。7支部、東京地区、本部による12演目が並んだ。公演の性質上、若手ダンサーが多数出演するが、発表会風の作品はほぼ皆無。ダンサーのレベル及び、支部の制作意識が向上したせいだろう。一般の観客が日本バレエを概観し、なおかつ楽しめる公演に成長した。


古典5作、創作6作。例によって本部のリシーン作品『卒業舞踏会』が両日のトリを勤める。古典から上演順に、関東支部の『ラ・バヤデール』より「婚約の宴」(再振付・冨川祐樹)。主役経験豊富な福岡雄大ソロル)と日向智子(ガムザッティ)が、高度なソロと情感豊かな演技を見せる。やはり古典はバレエの華。若いアンサンブルがプティパ振付を経験する意義も大きい。中部支部はレガット兄弟の『フェアリー・ドール』2場より(再振付・エレーナ・レレンコワ、監修指導・岡田純奈)。標題役の山本佳奈を中心に、ピエロの河島真之、水谷仁、各国の人形たちが、可憐な人形ぶりと、清潔なクラシック・スタイルを披露した。


東京地区の『ワルプルギスの夜』はラヴロフスキーの振付に横瀬三郎が手を加えたもの。3人のニンフがバレエブラン仕立てで淑やかに踊る。バッカナーレの狂躁よりも牧歌的雰囲気が優るのは日本人ならでは。浅田良和のバッカスと、樋口ゆりのアリアーヌも慎ましやかな情緒を漂わせた。北陸支部の『パキータ』(改訂振付・坪田律子)は、土田明日香の情熱的なパキータと、法村圭緒のノーブルなリュシアンの組み合わせ。法村は登場するだけで舞台に気品が満ちあふれる。端正なソロが素晴らしかった。アンサンブルも技術・スタイルをよく身に付けている。トロワの巻孝明は未来のノーブル候補。


一方、創作はクラシックからコンテンポラリーダンスまで多彩だった。北海道支部Jewelry symphony』(振付・石川みはる)は、ビゼー交響曲ハ長調から3つの楽章を用いたシンフォニックバレエ。パステルのチュチュが美しく、出演者全員の練習成果がよく分かる振付だった。東京地区の『スケルツォ』(振付・今村博明、監修・川口ゆり子)は、ブラームスのピアノ生演奏にゴージャスな衣裳で踊るロマンティックなネオクラシック。本島美和とJ・H・リードのエレガンスが際立つ。対して中国支部の『ピアノ・ブギ・ウギ』(振付・貞松正一郎)は、ジャズやフォークダンスを取り入れた音楽的で闊達な作品。貞松自身、パ・ド・ドゥでは相変わらずのダンスール・ノーブルぶりを発揮した。


関西支部の『Zero Body』(振付・島崎徹)は、Z・キーティングの土俗的なミニマル音楽に乗せて、9人の少女が踊るコンテンポラリーダンス。照明(立川直也)と絡み合った幾何学的フォーメイション、低重心のハードでオーガニックな振付が、ミニマルな陶酔感をもたらした。同じく四国支部の『in the Air』(振付・青木尚哉)は、ダンス・クラシックを取り入れたスタイリッシュなコンテンポラリーダンス。ダンサー青木の持ち味である脱力コミカル系ではない、あくまで正統的な振付を、24人の少女が踊り切った。


異色作は関東支部の『THE SWAN』(演出・振付・西島数博)。『白鳥の湖』第二幕に手を付ける胆力を見せた。永橋あゆみのオデット、高比良洋の王子、新村純一のロットバルトという適材適所に、白鳥と黒鳥が絡む。隊形、出入りの整理はこれからだが、ロットバルト中心のダークな美意識と鋭い音楽性が、新たな第二幕を創出した。


恒例の『卒業舞踏会』では、マイレン・トレウバエフの元気な老将軍、江藤勝己の自然体且つ母性的な女学院長、志賀育恵の繊細なラ・シルフィード、江本拓の美しいスコットランド人、天性のコメディエンヌ齊藤耀の即興第1ソロなど、適材を楽しむことができたが、最大の驚きは、即興第2ソロ初日の奥田花純が物語を生きて、作品にドラマティックな局面を与えたことである。


シアターオーケストラトーキョー率いる福田一雄が、舞台を包容するパワフルな指揮で、公演に大きく貢献した。(8月28、30日 新国立劇場オペラパレス) *『音楽舞踊新聞』No.2956(H27.10.1号)初出