有馬龍子記念京都バレエ団『ロメオとジュリエット』2015

標記公演評をアップする。

フランス派スタイルを信奉する有馬龍子記念京都バレエ団が、久々の東京公演を行なった。プロコフィエフ音楽、ファブリス・ブルジョワ振付の『ロミオとジュリエット』全幕である。主要キャスト8人に、エトワールを含む現旧パリ・オペラ座ダンサーを配した破格の座組。これはオペラ座の演劇空間を日本で実現しようとした主宰者の、芸術的情熱によるものである。


振付のブルジョワは現パリ・オペラ座メートル・ド・バレエ。前回12年の『ドン・キホーテ』では、キューピッドのトラヴェスティを解いて、男性ダンサーを配し、自然体のマイムを基調に、装飾音符のようなフランス風足技を随所に散りばめた。


今回もまずマイムの内発性に目を奪われた。音楽と一致していることはもちろん、登場人物の内面から動きが生み出されている。大仰ではなく自然。その頂点がキャピュレ卿のシリル・アタナソフだった。ブルジョワ演出の創意として、冒頭と終幕に、書斎で娘の思い出を綴るキャピュレ卿が登場する。机に座る身じろぎ一つしない形、それだけで悲劇の全てを物語った。最小限の動きで最大限の感情を生み出すマイム、遠くから見守るパートナリングは、舞台芸術家が辿り着く最高の境地である。


演出は隅々まで血が通っている。赤のキャピュレ家には情熱的な振付、緑のモンテギュ家には端正な振付、舞踏会の客人入場にも細やかな芝居が付いた。舞踏会でロミオの赤いシャツの胸元を開いて、その名を知るジュリエットの哀しみの仕草は、悲劇の微かな予兆。軽やかな日常の積み重ねがいつの間にか悲劇に至った。


ロミオにはエトワールのカール・パケット。必ずしも本調子ではなかったが、豊かな舞台経験と献身的なサポートで、ジュリエットを包み込むように支えた。エロイーズ・ブルドンは長い四肢を鋭角的に操る闊達なジュリエット。ロミオとの恋が始まった途端に、繊細な身体になり、後は情熱の赴くまま悲劇を突っ走った。


キャピュレ夫人のモニク・ルディエールは、夫に寄り添い、娘を気遣う愛情深い佇まいが素晴らしい。パリスにはノーブルなクリストフ・デュケンヌ、ティバルトには暗い情熱に満ちたピエール=アルチュール・ラヴォー、ベンヴォリオには正統派ヤニック・ヴィトンクール、そしてアクセル・イーボが、知的で品格あるマキューシオを、清冽なエネルギーを持って生き抜いた。アルレッキーノの仕草が見せるエスプリ、死に至る芝居の自然さに、オペラ座の底力を見た。


本多恵子の乳母、大野晃弘のヴェローナ大公、ロザランの藤川雅子を始めとするバレエ団側も、ゲスト陣と溶け込む優れた役作りを見せる。マキューシオ友人の奥村康祐、西岡憲吾、鷲尾佳凜の美しいスタイル、フォークダンス若手男女の清潔なスタイル、舞踏会のエレガントなアンサンブルなど、ブルジョワ薫陶の成果は明らかだった。


指揮の江原功が、ロイヤルチェンバーオーケストラからドラマティックな響きを引き出している。(8月2日 ゆうぽうとホール) *『音楽舞踊新聞』No.2956(H27.10.1号)初出