テアトル・ド・バレエ・カンパニー「ダンス・ボザール」2015

標記公演評をアップする。

名古屋市を本拠とするテアトル・ド・バレエ・カンパニーが、秋恒例の「ダンス・ボザール」を開催した。バレエ団の常任振付家、井口裕之の4作品を見せる意欲的な公演である。


幕開きは、井口が指導に当たる志学館高等学校ダンス部の『Shaking Auk』。冒頭、ウミガラス達が足元に卵を抱える様子が描かれ、そこからバスケット・ボールのような卵(ボール)の攻防が繰り広げられる。複雑なフォーメイション、互いに組んでの動き、重く低い動きなど、生徒達にとってハードルの高い教育的作品だった。


続いては今年の「バレエコンペティション21」の受賞者二人。コンテンポラリー部門シニア第1位受賞の畑戸利江子が、美しいバレエのパと動物的動きを融合させた、ダイナミックな『春の祭典』(振付・井口)を披露。また振付部門第3位受賞の川原美夢が、自らの思いや感情を等身大で綴った『Atomatitoo』を、伸びやかに踊った。


前半の最後は井口の再演作『DOLL』。ラグタイムやバッハを組み合わせた緻密な音楽構成で、人形たちと人形使い、すなわちダンサーと振付家の関係を描く。人形使い(井口)と、彼が溺愛する美しい人形(浅井恵梨佳)とのパ・ド・ドゥ、人形使いと、彼にラブコールする情熱的な人形(植杉有稀)とのデュオが素晴らしい。エロティックとコミカルの両方を具体化できる井口の才能が明らかだった。最後は人形たちに見放された人形使いが、ペトルーシュカのようにくずおれて、振付家の哀感を漂わせた。


後半は新作『コロッセオ』。古代ローマの女性剣闘士を描いた物語コンテンポラリー・ダンスである。最強の女性剣闘士(服部絵里香)が、一人紛れ込んだ弱い男性剣闘士(高橋大聖)の面倒を見る中に、恋に落ちる。女性の内省的なソロ、情熱的なパ・ド・ドゥを挟んで、最後は二人が闘うことに。女性が勝ち、とどめを刺せずにいる所を、男性がその手を取って自らを刺す悲劇に終わる。


井口の音楽性、肉体フォルムの造型センス、コメディを含むドラマへの感性が結集した作品。アルビノーニ、ヴィヴァルディ、カゼッラ、シャリーノ等、イタリア新旧作曲家の音楽が、物語の場面を繋いでいく(最後の試合場面のみショスタコーヴィチを使用)。


服部の優れた振付解釈が加わった音楽的パ・ド・ドゥ、剣闘士のスポーティな訓練、コミカルな疑似試合など見せ場が多く、特に、古代ローマ時代の音楽を再現した「シンフォニア」によるアンサンブルが素晴らしかった。アジア的な太鼓、笛、弦、声に呼応して、二次元フォルム、狂言を思わせるすり足挙げが繰り出され、音楽と振付の幸福な一致を見ることができた。


今回は音楽構成で物語を語らせる手法だったが、もし男女同数に振り付ける条件が整えば、さらに物語に傾斜した演出も可能になるかも知れない。(11月7日 名古屋市芸術創造センター) *『音楽舞踊新聞』No.2961(H28.1.1/15号)初出